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  • 【2713冊目】村上春樹『螢・納屋を焼く・その他の短編』

    螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)作者:春樹, 村上新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン35冊目。村上春樹の初期短篇集です。それぞれの作品の印象を一言でいうと、「螢」はリリカル、「納屋を焼く」は不気味、「踊る小人」はホラー、「めくらやなぎと眠る女」はミステリアス、「三つのドイツ幻想」は寓話的、といったところでしょうか。どの作品も、いや、それをいうなら村上春樹の作品の多くが、日常を丁寧に描きつつ、その裏側にある非日常の気配を濃密に漂わせています。描いているものは部屋の掃除とか食べた料理とかなのですが、その描写が具体的であればあるほど、その隙間にわずかに顔…

  • 【2712冊目】山田詠美『ぼくは勉強ができない』

    ぼくは勉強ができない (新潮文庫)作者:詠美, 山田新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン34冊目。主人公の時田秀美は、17歳の高校生。勉強はできないが、女性にはよくモテる。そして、そっちのほうがずっと大事なことだとわかっている。自分が高校生の頃を思い出しながら読んでいた。大人の目からは、かれらは何にもわかっていないように見える。でも、実はかれらは、いろいろ分かっている。むしろあまりにもまっすぐに、あまりにも深くわかりすぎてしまい、自分の身の丈とのあまりのギャップに、悶え苦しむものなのだ。本書は、そんな高校生の心情を、圧倒的な解像度の高さで描く。ちょっとした会話…

  • 【2711冊目】三浦しをん『きみはポラリス』

    きみはポラリス (新潮文庫)作者:しをん, 三浦新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン33冊目。読んでびっくりしました。三浦しをんは『舟を編む』など何冊かを読んだ印象では、どちらかというとライトでコミカルなお仕事小説のイメージが強かったのですが、こんなに緊密で高濃度の作品が書けるとは。ポラリスとは、北極星のこと。全天の中心であり、不動の道しるべです。本書はそんな北極星のような相手のいる人たち(あ、ある作品では「犬」ですが)を綴った短篇集。恋愛小説といえばそうなのですが、本書で描かれる恋愛は一筋縄ではいきません。中でも印象に残ったのは、復讐と浮気が絡み合う不気味な…

  • 【2710冊目】安部公房『砂の女』

    砂の女 (新潮文庫)作者:公房, 安部新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン32冊目。砂の穴に埋もれていく家に閉じ込められた男の話です。こちらもずいぶん久しぶりの再読。いろいろ深読みができそうな話ではあります。部落のために犠牲になって砂を掻き出す男の姿には、集団のために犠牲となる個人の姿が象徴されているとか、そこに暮らす諦め切った表情の女には、体制に従順な国民の姿である、とか。ただ、今回読んで感じ入ったのは、徹底した「砂」の描写のすごさでした。肌にまとわりつく砂粒の不快なざらつき、少しずつ降り積もってくる不定形の砂の不気味さが、ほとんど肌感覚レベルで迫ってきます…

  • 【2709冊目】畠中恵『てんげんつう』

    てんげんつう作者:恵, 畠中新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン31冊目。上は、なぜか文庫の画像が出てこなかったので、単行本バージョンになってます。前回紹介した『しゃばけ』に続き、今度はシリーズの18冊目。なんと刊行20年目とのこと。1冊目から一挙に18冊目に飛んだのですが、まったく違和感なく読めました。登場人物はやや増えていますが、メインの若だんな、佐助、仁吉といったキャラは変わらず。小鬼の鳴家たちはすっかりマスコットキャラ化しています。「てんぐさらい」「たたりづき」「恋の闇」「てんげんつう」「くりかえし」の短編5作が収められていますが、どれも安定の筋運び。…

  • 【2708冊目】畠中恵『しゃばけ』

    しゃばけ(新潮文庫)【しゃばけシリーズ第1弾】作者:畠中恵新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン30冊目。もう何冊でているのかわからない「若だんな」シリーズの第一作です。江戸時代を舞台に、妖怪が見えてしまう虚弱体質の「若だんな」の活躍と成長を描く時代+妖怪+ミステリです。『ゲゲゲの鬼太郎』から『妖怪ウォッチ』まで、日本人はホントにこういうのが好きなんですねえ。本書に出てくる妖怪たちも、助さん格さんポジションの犬神に白沢、小鬼のような鳴家に鈴の音と現れる鈴彦姫など、あまりシリアスにならず、むしろみごとにキャラクター化しています。だが、それを言えば本書でも重要な役割…

  • 【2707冊目】星新一『妄想銀行』

    妄想銀行(新潮文庫)作者:星 新一新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン29冊目。安定の星新一クオリティ。さすがにいろいろ読んでいると、ラストの予想がついてしまうものもありますが、一つとしてつまらないと思える作品がないのはさすがです。ちなみに解説は都築道夫氏ですが、けなすような書き振りでハラハラさせつつ星作品の魅力を的確に表現していて、こちらもおもしろい。特に、描写がないからこそ古びない(「小説はしばしば、描写の部分から、腐りはじめる」)という指摘にはうならされました。そうなのですよね。さらにいえば登場人物の名前もせいぜい「エヌ氏」、舞台となる国や地域も時代背景…

  • 【2706冊目】七月隆文『ケーキ王子の名推理』

    ケーキ王子の名推理(新潮文庫)作者:七月 隆文新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン28冊目。ケーキ好きで単純素朴な女子高生の未羽は、失恋の痛手を癒やそうとたまたま入ったケーキ屋で、学校一のイケメンだが女の子には冷たいので「冷酷王子」と呼ばれる颯人に出会う。彼は実は世界一のパティシエを目指し、その店で修行していたのだ・・・・・・定番といえば定番ど真ん中の設定なのだが、未羽のキャラが魅力的なのと、会話がとにかくリズミカルで「上手い」のが評価ポイント。5巻まで続編が出ているのも納得のクオリティです。ケーキの描写が素晴らしいので、読むとケーキを食べたくなります。「推理…

  • 【2705冊目】宮本輝『錦繍』

    錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)作者:宮本 輝新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン27冊目。昨日紹介した『白いしるし』と同じ、30代の女性が主人公。でも、その二人の、なんと違うことか。『白いしるし』の夏目さんは、よく言えば若々しく、悪く言えば幼い。一方、本書の亜紀には、静かで落ち着いた、しかしどこか覚悟の定まった、芯の強さを感じた。それは結婚に離婚(しかも理由が、夫と浮気相手の心中未遂)、さらに再婚という人生の経験値の差か、あるいは先天性の脳性麻痺で障害をもつ息子を育てる母としての強さなのか。本書は書簡小説なのだが、そのやりとりをしているのが亜紀と、例の心中未…

  • 【2704冊目】西加奈子『白いしるし』

    白いしるし (新潮文庫)作者:西 加奈子新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン26冊目。こういう本を読むと、恋愛というものからずいぶん遠ざかったものだなあ、と思う。一人の人をここまで好きになることの、溶けるような幸福。その相手に恋人がいると知ったときの、ドロドロの地獄絵図のような心境。しかもその相手は彼の異父妹で、彼はその相手のことをこんなふうに言うのだ。「あいつと離れるのは、離れるいうより、剥がす、剥がれる感じなんです」とはいえ、この時点で小説は半分を少し過ぎたくらい。ここから物語は、主人公である夏目の復活に向けて驚くべき展開を見せる。そして読み手は気づくのだ…

  • 【2703冊目】川端康成『雪国』

    雪国(新潮文庫)作者:川端康成新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン25冊目。例によって若かりし頃に読みましたが、ピンと来なかった一冊です。むしろ「片腕」や「眠れる美女」の妖しさのほうが分かりやすく、惹かれるものがありました。再読して感じたのは、これは「大人のための名作」であるということ。仕事もせず親の遺産で暮らしながら超然を気取る島村と、芸者のタマゴとして働き、苦労を重ねつつ奔放で開けっ広げな性格の駒子のコントラスト。そして、そんな島村に惹かれていく駒子の切ない心情は、やはりそれなりに年齢を重ねてはじめて胸を打つものがあります。そしてやはり、見事なのはその描写…

  • 【2702冊目】和田竜『村上海賊の娘』

    村上海賊の娘(一)(新潮文庫)作者:和田 竜新潮社Amazon 村上海賊の娘(二)(新潮文庫)作者:和田 竜新潮社Amazon 村上海賊の娘(三)(新潮文庫)作者:和田 竜新潮社Amazon 村上海賊の娘(四)(新潮文庫)作者:和田 竜新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン24冊目。「100冊」に取り上げられているのは第1巻ですが、こんな面白い小説を1巻だけで中断できるワケがない。全4巻を一気に読み切ってしまいました。織田と毛利が鎬をけずる戦国時代の瀬戸内海にあって独自の存在感を示していた海賊衆「村上海賊」。そのひとつ、能島村上の当主の娘「景」(きょう)を主人公…

  • 【2701冊目】アーネスト・ヘミングウェイ『老人と海』

    老人と海(新潮文庫)作者:ヘミングウェイ新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン23冊目。ちなみに「100冊」に入っているのは新訳ですが、今回はなじみの深い福田恆存訳で再読しました(だから表紙も旧バージョン)。多くの人が最初に触れるヘミングウェイの小説ではないでしょうか。私もずいぶん前(たぶん高校生の頃だったと思う)に手に取り、一気読みしたのを覚えています。そのあまりにもカッコいい描写、強烈な文章に驚いて、あわてて他のヘミングウェイの作品、たしか『日はまた昇る』や『武器よさらば』あたりを読みましたが、どうもあまりピンと来ませんでした。どちらも『老人と海』に比べると…

  • 【2700冊目】森見登美彦『太陽の塔』

    太陽の塔(新潮文庫)作者:森見登美彦新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン22冊目。モリミーこと森見登美彦のデビュー作。男ばかりで固まって悶々とし、アホな計画にうつつを抜かしつつ、実は誰よりもナイーブで、失恋に傷つき、必死に自分を守ろうとする。そんな主人公らは、まるで過去の自分を見ているかのようです。「男汁」あふれるこの作品には、だから女性はほとんど出てきません。主人公の元恋人の水尾さんもそうですし、「邪眼」の持ち主として最初の方で強烈に登場する植村嬢も、その後はほとんど出てきません。徹頭徹尾、これは煮え煮えで妄想にこじれまくった愚かな男たちのための物語なのです…

  • 【2699冊目】吉本ばなな『キッチン』

    キッチン作者:吉本ばなな幻冬舎Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン21冊目。「わたしがこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う」という書き出しから、一挙に引き込まれる。主人公のみかげの孤独が、一緒に暮らす雄一の孤独としずかに共鳴する、なんともせつない物語。雄一の母(以前は父)のえり子はトランスジェンダーだが、その存在が自然と受け止められているのも、いい。続編の「満月」は、そのえり子が殺されたというショッキングな導入からはじまる。ここではなんといっても、仕事で行った旅先で美味しいカツ丼に出会い、タクシーを飛ばして雄一に届けるシーンが忘れがたい(というか、実はこの本は再…

  • 【2698冊目】知念実希人『天久鷹央の推理カルテ』

    天久鷹央の推理カルテ (新潮文庫nex)作者:知念 実希人新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン20冊目。「泡」「人魂の原料」「不可視の胎児」「オーダーメイドの毒薬」が収められたメディカル・ミステリー短編集です。全体の印象をひとことで言えば、医療版シャーロック・ホームズ。それも、王道ど真ん中。主人公の鷹央は、超人的な頭脳と膨大な知識がありながら超のつく変わり者で、人付き合いはお世辞にもうまいとは言えません。さすがにホームズと違ってヤク中ではありませんが、その代わり酒は底無し、食べるのはカレーと甘い物だけという超偏食。そして、姉の真鶴が大の苦手(とのことですが、こ…

  • 【2697冊目】アルベール・カミュ『異邦人』

    異邦人 (新潮文庫)作者:カミュ新潮社Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン19冊目。大学生の頃、一度読みましたが、その時はなぜこれが文学史上に残る名作と言われるのか、あまりピンときませんでした。唐突な殺人に至る前半は退屈で、後半の法廷シーンも物足りなさを感じたのを覚えています。今思えば、「不条理文学」という触れ込みが良くなかったのかもしれません。今回、20数年ぶりに再読して感じたのは、主人公ムルソーのもつ圧倒的なリアリティでした。そのリアリティの前では、周囲の人物,特に後半に登場する判事や検事、牧師のような人物はなんとも薄っぺらに思えるほどです。そして、そのリアリテ…

  • 【2696冊目】サン=テグジュペリ『星の王子さま』

    星の王子さま (新潮文庫) 作者:サン=テグジュペリ 新潮社 Amazon 「新潮文庫の100冊2021」全冊読破キャンペーン第1投にして、18冊目。まずはこのあたりから始めましょうか。 超有名な一冊ですね。私も何度も読んできましたが、『夜間飛行』や『人間の大地』に出会ってからは、なんとなく食指が動きませんでした。いや、良い本ではあるんですが、なんでみんな『星の王子さま』ばっかりもてはやすんだろう、と思ってしまったんですよね。本当にこの本が良いと思うなら、サン=テグジュペリの他の本も、もっと読まれて良さそうなのに。 そういうわけで久しぶりの再会でしたが、いろいろ発見がありました。とりわけ、王子…

  • 【本以外】「新潮文庫の100冊」コンプリート企画をスタートします!

    夏シーズン恒例の「文庫100冊企画」が、書店を賑わしておりますね。 今までこの手の企画にはあまり食指が動かなかったのですが、こないだラインナップを眺めていたら、知らないうちに読んだことのない作家さん、聞いたことのないタイトルがだいぶ増えておりました。 これじゃいかん! ということで、自分の読書の幅を広げるべく、100冊コンプリートを目指してみたいと思います。 ターゲットは、もっともスタンダードなセレクションと思われる「新潮文庫の100冊」にしました。「よまにゃ」も「カドフェス」もかなり気になりますが、まあ、まずは基本から、ということで。 読んだことのある本も、この機会に再読するつもり。ただ、…

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