人物化した思想が動き出す 文字数:14054
人物化した思想が動き出す椎名麟三とバフチンを手掛かりに読む『カラマーゾフの兄弟』「ドストエフスキーの人物は、一つの観念がそのまま生命をもった存在である」――椎名麟三「ドストエフスキーの作品構成についての瞥見」(1942)1椎名麟三が射抜いた“人物=イデー”という構図昭和17年、まだ無名だった椎名麟三は短い評論の中でドストエフスキーの特徴をこう要約した。主題は「人物化した思想」である。主題の数は人物の数と等しく、互いに完全には連関しない。つまりドストエフスキーの小説では、登場人物がただの性格ではなく「未解決の思想(イデー)」そのものとして舞台に立ち、互いにぶつかり合いながら物語を推進する、というわけだ。後年、この洞察がきわめて先駆的だったことを証明する学者が現れる――ロシアの文芸批評家ミハイル・バフチンであ...人物化した思想が動き出す文字数:14054
2025/06/30 23:29