骨董商Kの放浪(50)

骨董商Kの放浪(50)

教授が亡くなったのは、10日前のことだった。前日夜までは普段通りにご自宅で食事をし、その翌朝あまりにも起きてこないご主人の様子をみにいった奥様が、ベッドの上で冷たくなっている教授を発見したとのこと。享年86。ご定命(じょうみょう)といってよい教授らしい亡くなり方のように思えた。葬儀は近親者のみで執り行われたようで、その訃報はほとんどのひとに知らされず、一週間ほど経ってからわれわれ骨董業界に広がっていったのである。当然、教授と関わりのあった――早い話、教授のコレクションを狙っている骨董商たちは続々と弔問に訪れたが、皆奥様から玄関先でシャットアウトをされてしまったそうで、市場(いちば)に集まる古老…