骨董商Kの放浪(42)

骨董商Kの放浪(42)

ロンドンへ出発する前日の大型連休明けの月曜日。ぼくは月二回美術倶楽部で開かれる或る個人会に参加していた。この市場(いちば)は雑多なモノが大半を占めるが初生(うぶ)口が多いことで知られ、そのなかには一級品も混ざっていて時おり高値まで競り上がることもある。よって、百五十人ほど参加する業者たちにも幅があった。会場の床を覆う赤い敷物の上に足の踏み場もないほどの荷物が並べられていて、皆モノとモノとの僅かな隙間に足をつっこみ身体を折り曲げながら下見をしている。ぼくが低い姿勢で縄文土器の破片の一群を一つひとつ手に取って見ていると、後ろから声がした。 「明日から、ロンドンだろ?」才介である。「うまく買えるとい…