未熟な人間、恐怖に抵抗して生きる
東京のとある下町に訪れたことがある。まだ役者として舞台に立っていた頃だ。商店街の通りにステージをつくり、お祭りの一環でパフォーマンスをする。準備期間を含め、数日そこへ通った。5年以上前の光景なのに、わたしの意識にこびりついて離れないのは、舞台の照明や着飾った衣装や踊りの躍動感などではなく、1つのこじんまりとした店の佇まいだ。 そこは昔ながらの和風然とした雰囲気で、まさに舞台が設置される商店街沿いに店を構えていた。お煎餅か何かを売っていたように思う。やや暗めの照明の部屋の奥に、店員であろうおばあさんが腰かけていた。彼女は客が入るであろう玄関口の方面ではなく、空間のどこかをじっと眺めていた。店内に…
2022/05/03 06:47