男子高校生の孫が、家に彼女を連れてくる。その子は音大を受験するつもりだそうだ。ジイさんのクラシック音楽の知識や集めたCDが……役に立つのか?
こちらで連載・完結しました小説『名曲聴いて、なんになる?』の第1章と第2章、わずかですが加筆修正の上、註をつけて note でまとめました。100 円です。こちらからどうぞ。↓https://note.com/ohabari_t7
【お詫びとお知らせです】 『世界皇帝が言いました。』は短編小説のつもりで書き出したのですが、書いているうちに終わりが見えなくなってしまいました。 そこで、このはてなブログでは、すでに公開した24節までで尻切トンボのまま終わらせていただきます。すみません! 書きたいことだけ沢山あって、それが全然整理出来ていない状態なのです。 今後書き継いで完成させたい意志はありますので、いったん中断して筋書きをまとめその上で、このブログではなくnoteにぽつぽつ出して行きたいと思います。 こちらでは代わりに既存の作品を直し直し連載出来ればと考えており、決まり次第お知らせいたします。
世界皇帝が言いました (24) 「でも、これからもし俳句作らないといけな くなったら、お父さんに教えてもらえますね」末永はとっさに (ふん) と鼻で笑うような表情をして見せたが、腹の 中では動揺していた。安純がさっき言ったこと (人間の思い上がりはものすごく強いものだか ら、そこを手玉にとれば小金を出させるのは 訳もない) が彼の胸を抉っていた。(もしかして、後光が差したのも天岩戸の連 想とかも、みんなおれののぼせ上がりだった のか?)そう思うと、これからこの娘と二人きりで暮 らしていくのは忌々しかった。 そんな末永の胸の内など知らぬげに 「でも、この頃になって思うのは」 と、安純は少し声の調…
世界皇帝が言いました (23) 「教団じゃ、幸せだったのか?」 彼は娘の横顔に向かってそう聞いた。「幸せか不幸せか、そういうことを考えずに 済みました。ひたすら活動……というか、指 示された仕事だけして……リーダーから激励 されて、いつも仲間がいて」「……だったら、それを急に辞めてまた逆戻 りってことになるんじゃないのか?」 「段々にお母さんののめり込み方が普通じゃ なくなってきて……あたしだって、他の人が 見たらずっと、マトモじゃなかったんでしょ うけど、とにかく最近のお母さん見ていて、急に胸の 底の方が冷えるって言うか、我に返るような 気分になってきていました」「じゃあもし、美寿々がおれの…
世界皇帝が言いました (22)コーヒーを二人分買って安純が戻ってくるな り 「なあ?」 と末永は言った。「ああいう教団って、そんなに簡単に辞めら れるもんなのか?」 「ふつうはそう簡単に辞めさせません」 「そうだろう?」「でも、お母さんとあたしは相当浮いてまし たから、教団の中でも」 「おれはお前を信用してイイのか?」 このひとことが自然に自分の口から出てきて、 末永は安心した。「お父さんがそう思うのは当然です」 安純はいったん父親を正面から見て、それか ら通りの方へ顔を向けた。「いくら美寿々が憎いからって、ただそれだ けでおれに付くのか、おまえは? おれが分 からないのはそこだ」 「そうじゃ…
世界皇帝が言いました (21) 「世界皇帝が言いました。『ニッポン人、も っと薄汚くなりなさい。おめーらもう十分貧 乏なんだから、着るもの選んだり洗濯なんか したりしなくていいんだよ!小汚い格好でその辺うろうろしなさい。そう そう、それでイイんだ。貧乏人は貧乏人らし く! 中身の方はよ、おまえら前からもう十 分薄汚いから、これで外っかわも小汚くなっ て完璧』」末永はこれまで世界皇帝に何を言われても (バカバカしい) と思うか他人事のように感じるか、いずれに しても特に感情が動かされるということは無 かったのに、何故か今度は違った。それを反発心と言ってよいのかどうか分から ないが、彼はほんの一言…
世界皇帝が言いました (20) プロテスタントということは宗教だろう。こ れが末永の脳みそに突き刺さった。そのキリスト教の一派が、自分にとって途方 もない意味を持っているに違いないというこ とが、なぜだか彼には分かってしまう。何故といって彼はいまどっぷりと (神話モード) に浸っているからである。するとふだんは感 じないような激しいのどの渇きが末永を襲っ た。 「おれたちは話し合う必要があるな」 末永はそう言って、背中に虫でも入ったみた いにこそばゆく思った。 (てめえの娘に向かって、何てえスカした台詞だ!)けれど、他に言いようがなかったのだ。彼は この長女と (今後のこと) について話し合わ…
世界皇帝が言いました (19) 「あれはね、あのヒトが横浜かどっかのお屋 敷で壁塗ってるときに、そこのご隠居だかお 客さんだかに怒鳴られたんだよ。なにして怒 鳴られたのかはあたしに言わなかったけど、 とにかく帰ってきてから『ムキョーヨーモン』 っておめえ、知ってっかって。『モノを知らない人間のことだろ』って、あ たしがいい加減に答えたら妙に納得しちゃっ てさ、あのヒト。それから何か気に食わない ことがあると、なんでもかんでも『ムキョー ヨーモン、ムキョーヨーモン』って」スポーツ新聞以外はまず文字を読んでいると ころを見たことのない父親が、寝そべって本 を読んでいる末永に『どけ、このムキョーヨ …
世界皇帝が言いました (18)「おれはな、ここに集まってるような連中を 軽蔑してる」 末永はそう言い右手の親指を立てて背後(つま り句会の会場)を指した。すると安純が言う。 「あたしは……Mを辞めました」 (ほう!) またしても打てば響くような答えではないか。父親は句会なんかに出ていてもしょうがない と見切りをつけ、娘は十年以上その活動を続 けてきた教団Mと、もう縁を切ったと言う。(いい流れだ) (神話的で無理がない) 本気でそう思っている彼の背後でまた扉が開 き、今度は声が掛かった。 「末永さん、あの……そろそろ始めますけど」彼は娘にここで待っていろと言い、会場に入 ると真っ直ぐ世話役の男の…
世界皇帝が言いました (17) 「おれはおまえを信用する」 と言う代わりに末永は言った。 「心配しなくてもいい。この上家まであいつ に売っ飛ばされてたまるか」「そうですか」 「アジア人同士戦わず、だな」 思わずそう言ってしまって末永は自分で驚い た。なんだ、この台詞は?安純は表情を変えなかった。だが、こいつは 必ず聞き返してくるだろうと思って娘を見つ めた末永が聞いたのは 「ああ……」 という安純の声だった。否定でも肯定でもない、それでいて困惑とも 言えない 「ああ……」 である。格別感情のこもっていない、小さな声だった。 だがそれでも末永はまあいいと思った。言っ ているおれも何でそれを口にし…
世界皇帝が言いました (16) 外からドアに手をかけたままの安純が (ちょっとこっちで……) という目顔をして見せた。末永は弾かれたように席を立ち、二人は廊下 で向かい合った。 「お父さんは、土地とか家の権利書なんか、 確かめましたか?」「ん?」 安純が母親似なのは百も承知の末永だが、こ れまで彼は自分の長女を美人だと思ったこと は一度もなかった。それがいまは、なかなか の美人……のような気がする。「それは、美寿々が、どうにかするっていう ことか?」 「用心だけはしておいた方がいいと思います」末永は昨晩、国債が売られてしまったのを確 認した直後に、土地の権利書その他、不動産 関連の重要書類と実…
世界皇帝が言いました (15) 例の“後光騒ぎ”で、まだガヤついている句会 の会場。その扉が、外から細めに開いた。いつも遅れて句会にやって来る者は珍しくな いし、この地域センターの職員なども、何か ちょっとした連絡で入って来ることがよくあ る。だがこのときは、タイミングの問題なのか、 ドアノブを回すカチャリという音がしたとた んに、その場の全員がハッとして扉の方を見 た。またその外にいる誰かも、あたかも役者が溜 めを作って登場するみたいに、絶妙な一呼吸 をおいて顔をのぞかせた。女の顔だ。 (天の岩戸!) 末永はそう思った。二十代か三十代か、ドア からのぞいた顔が輝いている。だがそれは、彼の娘の…
世界皇帝が言いました (14) それでももう一度、と思って彼がまた食事に 誘ったのは、可愛らしさで評判だった遠藤と は対照的にさっぱり化粧映えがせず、ずんぐ り体系で髪型まで野暮ったい羽根木という女 子社員だ。結果はもっと惨めだった。羽根木は後ずさり して 「いいです」 と困惑顔で言った。それでも末永が 「美寿々と結婚してもいい」 としゃあしゃあとした顔で母親に言ったのは、 決して彼が自分に見切りをつけたからではな い。そういう考えの筋道はこの男にない。末永は当面の関心事を他のことに移したのだ った。自分が美寿々と結婚すれば、美人の妻 を持った自分に会社の若い女たちが一目置く だろう、と。そう…
世界皇帝が言いました (13) その後十年以上、末永は大高親子の名前を聞 かなかった。ただしそれは母親が彼に言わな かっただけで、この間にも親子は、年に数回 末永工務店に顔を見せていた。末永がそのことを知ったのは会社勤めを始め て五年も経った頃である。ちょうどその頃、 家を出て一人暮らしを始めようかと考え出し ていた末永は、或る晩母親からこう言われた。「あんた、彼女いるのかい?」 「ああ? なんで?」 「いないんだろ」 「だったらどうなんだよ」「美寿々を覚えてるだろ?」 「……」 「大高美寿々だよ」末永の母親は、自分が大高久美の娘、美寿々 をこれまで一度も他人とは思わずに扱ってき たという話を…
世界皇帝が言いました (12) 末永信の妻、美寿々は三女の朱音(あかね) が小学校にあがる頃から教団Mの集まりに通 うようになった。初めのうちは、こんな話を聞いたとか知り合 いの誰彼に会った、というような報告を末永 にしていたが、彼がほとんど相手にしないの でそのうち何も言わなくなった。末永は家の金を全部、光熱費の支払いまで自 分で管理していたから、妻が毎月彼から渡さ れる分でやりくりしている限りは、どんな宗 教だろうと気にしなかった。避暑地で合宿する何とかセミナーに行きたい (十数万の費用がかかる)と美寿々が言って きたことが一度だけあるが、末永は 「そんな金は出せない」 と答え、彼女も食い…
世界皇帝が言いました (11) 叫んだ須藤の声がかん高く素っ頓狂だったの で、末永の向かい側に座った十人ほどは一様 に驚いた顔つきでこちらを見た。その宗教画のような厳かさ。いや、これは実際にこの場面が厳かだったと 言うよりも、末永がイメージでこの空間を俯 瞰した結果 (宗教画みたいだ) と勝手に思ったのである。そのくせ (たとえばそれは、どういう宗教画か?) と問われても、彼はすぐに答えることはでき ない。(なんか、まんなか辺りに光が差していて、 それに照らされた誰かをサ、周囲の人間が引 き気味に見つめてるみたいな、あるだろ、そ んな絵が?) そもそも須藤が後光と言ったのは、ちょうど その時刻…
世界皇帝が言いました (10) 「そろそろ清記用紙を集めたいと思いますの で、まだの方、お急ぎ頂けますか? あと、 選句の方もよろしくお願いします」末永はしばらく迷っていたものの、マスクの 句の作者が分かるまではどうしてもここに居 たいと思い、席について清記を続けた。「マスクして幸せそうなニッポン人」アジア人同士……というのも謎だが、この句 も全くのところ彼には謎だった。しかしさっ きのことがあるから、隣の都賀はこの句の作 者候補からは外していいだろう。だが、それ以上にはもう推理の働かせようが ない。十人程度の出席でも作者当ては意外に 難しいのに、今日は末永が見かけたこともな い人たちが何人も…
世界皇帝が言いました (9) 「法律が、どうかしたの?」 「いや、まぁ一般論として……」 「ウチの息子がロクでもない大学の、一応法 学部出たんだけど、今じゃ派遣会社のマネー ジャーだからねえ」「ああ、そう」 「自分で言ってるよ。『オレは奴隷隊長だ』 って。『オレ自身も奴隷なのに、奴隷をひっ ぱたくのが役目の奴隷隊長だぜ』って」 「ふーん」「あとねえ、東京地検特捜部ってのは正義の 味方じゃないんだって、ウチの息子言ってた わ」 「ああ?」 「東京地検特捜部って、アメリカに言われて ヘイコラ動くんだって。いっつもそうなんだ って。だからあの、正義の味方みたいな雰囲 気にだまされちゃダメなんだって」…
世界皇帝が言いました (8) 須藤昌枝は続ける。 「その友達って言うのがサ、小林さんって言 って中学校の国語の先生してたんだよ昔。そ れが今度、七、八人仲間集めて雑誌作ってみ ない?……ってあたしに言ってきたの」須藤は気分屋で、機嫌の良いときは今日のよ うによくしゃべるが、機嫌が悪いとこちらが 挨拶してもぞんざいに頷くだけで返事をしな かったりする女だった。 「『須藤さんあんた、顔が広いんだから仲間 集めてよ』なんて、あたし小林さんに言われ ちゃって、どうしようかなって思ってたんだ けど、実は真っ先に末永さんのこと思い浮か べたんだから」 (雑誌だあ? 恩着せがましく、なんだいそ りゃ)末永は…
世界皇帝が言いました (7) 一応末永の自覚の表面では、今日こうして句 会に出てきたのにもそれなりの理由はある。五千万円超の金を自分が失い、その動揺から さらにまた墓穴を掘るようなことをしでかさ ぬために、敢えてまるで関係の無い、こんな 句会のような集まりに出て一度は頭を冷やす ことこそが、かえっていい結果につながる…… という理屈がそれだった。 では実際ここへ来てみて、自分の頭が冷やせ そうか? (いやそれは、まだ分からない。句会の本番 はこれからだし) 彼は自分に言い聞かせていた。(それにしても、アジア人同士戦わず……って、 何だったんだ、あれは?)隣の席の都賀は、もう末永の方を見ていなか…
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