貝
巨大な二枚貝が、台所にいた。 子供の頃・・僕が3歳か、それ未満のときか・・ 台所は家の北に位置していて、日当たりが悪く、昼でも暗く、その暗い台所の食卓の隣の台の上に、その貝はいた。 黒くて・・形はハマグリで、上から見ればA4ノートパソコンサイズ、ぐらい。 大きな貝だな、と思っていた。貝は水の中にいなくても大丈夫なんだ、と思っていた。この貝、いつ食べるんだろ、と思っていた。 暗い昼の台所で、そのとき僕は一人で、貝を触っていた。 貝の口を触っていると、貝が口を開いて僕の右手の人差し指を挟んだ。 「痛い!」 僕は叫んだ。泣きながら叫んだ。母親がこの窮状を見て、僕を助けてくれるのを望んでいた。しかし、…
2021/07/30 14:33