まったく皺のないTシャツ 二十七章
年末年始に十分休暇が取れた一哉は今年も更なる飛躍を目指し仕事に勤しむ。その姿はもはや嘗ての気の小さかった、いじいじとした優柔不断で何に対しても常に迷いがちだった彼ではなく、傍から見ていても実に頼もしい好青年といった気配を漂わす。 それは彼が今までの人生経験に於いて、まだ若いながらもそれなりの辛苦を味わって来た功績に他ならない。そして現時点ではまだ自分自身には負けていなかったのだった。 新春恒例の舞台では一哉は主役を張り大盛況を収めた。その後もとんとん拍子でドラマやテレビ出演、更にはCMのオファーまで舞い込み一哉の仕事は多忙を極める。 そんな折、一哉に1本の電話があった。その相手は中学の同級生で…
2021/03/31 19:29