小説の走り出し

バルブ 18話

18 アポ爺の長い話   Mは金子さんと渋沢さんを連れて戻ってきた。まず目を引いたのは渋沢さんのいで立ち。登山でもできそうなバックパックを背負って、迷彩服を着…

2021/02/23 21:26

弟の詩

 ぼくには双子の弟がいます。   二卵性なんですけど、周りからはそっくりだよってよく言われます。 性格はまったく違うんでけどね。弟は割と真面目で優等生タイプ。…

2021/02/22 02:44

泣く赤ん坊

この赤ん坊は眠るとき泣きだすのだ。 この赤ん坊は寝ているとき泣きだすのだ。 この赤ん坊は目覚めのとき泣きだすのだ。  わたしの涙は誰がすくうのだ。タナトス。 …

2021/02/20 00:56

バルブ 17話

十七話 アポ爺の話  私はリッチャンが用意してくれていた朝食をとり終えた後、縁側に座って読書をしていた。時々顔を上げて庭のさざれ石に視線を移した、先日、見かけ…

2021/02/19 11:55

夏の妖精

 妖精が現れたのはある夏の晩のことでした。   夏の盛りの季節だというのに、やけに気温の低い寒々しい日でした。 夜寝るときに毛布を出そうか悩んだほど。 結局、…

2021/02/16 23:05

バルブ 16話

16話 渋沢さん 「はい、渋沢です」わたしは公衆便所の鏡に映る武装した自分の姿をみながら携帯電話を耳に当てました。「もしもし、渋沢さん。突然のお電話ごめんな…

2021/02/16 22:48

蛙のお姫様

冬の新月の晩だった。空気は喉に張り付きそうなほど冷たかった。ぼくは星明りを頼りに暗い夜道を歩いていた。乾いた風によって運ばれた厚く積もった砂に時々足を取られ…

2021/02/11 16:45

バルブ 15話

15話 バルブ闘争 母親の産道を抜け、産小屋の黴臭い空気を胸一杯に吸い込んでから、百年とプラス一日が経ちました。百年が永遠にも近い年月のように感じられた時期…

2021/02/11 10:43

運命のひと

序 運命の悪戯としか思えない偶然によって、時と空間を隔てられてもなお、ぼくたちは三度引き寄せられた。偶然も三度続けば運命と呼んでしかるべきではないだろうか。…

2021/02/10 00:05

静かなる闘争

   地下鉄のホームの粘っこく纏わりつく空気を震わせてようやく電車がやってきた。いつも通り溢れるばかりの混雑ぶりだ。ヤモリみたいに窓に張り付いている者、すっか…

2021/02/03 16:45

バルブ 14話

14 渦中 看護師や医師が騒然として病院の外に駆け出して行った。現場の異様な変貌ぶりに、喫茶店にいた客たちは身を乗り出して、大窓から駐車場の様子を見ている。…

2021/02/02 23:57

深夜の出会い

   静けさに耳を澄ませていると、女のすすり泣く声を聞いたような気がした。 一日の肉体労働で身体は疲れている。だけど眠ることができない。午前二時だ。四時間後に…

2021/02/01 03:18