第26話 最終話 再会、お別れ(2)
僕はダニエルにその後、一度だけ再会した。 短い夏休みを利用して、オアハカを訪れたのは、就職してから数年たってからだ。 メールやインターネットがまだ普及する前だから、どうやって待ち合わせたか覚えていない。だけど彼はメキシコ人の地元ミュージシャンとともにバンドを組み、バーで演奏をして、何とか生計を立てているようだった。 僕はダニエルが好きだった日本のチューブわさびをお土産に渡した。 「覚えてくれていたのか」 そう言いながら大事そうに小さなお土産をポケットにしまった。 そして、彼は僕をある家の裏庭に招き、バンドのメンバーとともに演奏を聞かせてくれた。スペイン語の歌詞で懸命に歌うダニエルは、心の底から…
2021/12/11 00:00