この手で行こう!(過去作品より)

この手で行こう!(過去作品より)

1994年8月 療護施設Bにて 店の中などで、電動車いすを操作しながら品物を眺めていると、「車いす押しましょうか」 見知らぬ人から声がかかることがある。特にきれいな女性からだと、〈世の中、すてたもんじゃないな〉 胸がおどる。「この車いすですね、電気で動くんです。狭いところでも操作はなれているんで、ぼくはだいじょうぶです」 わたしは健康な人のように話がうまくできない。だから、そのぶんゆっくり言った。しかし先方は言葉がわからなかったらしく、びっくりした顔で後ずさりをする。わたしの体にはいつも力がこもっていて、それがますます強くなってくる。すると、口元がとんがり、顔も熱くなって、手足がひとりでにドタ…