真に受けた男
すでに彼女のことは見えていなかった。 頭の中にだけ存在している視界にも、彼女の姿はなかった。 あいつが話していたことが、気になって仕方がなかった。 それが隠語かどうかは、もうどうでもよかった。 頭の中で、クローゼットの隅に置いている、 何年前のものか分からない書類の山が見えた。 それが僕を混乱させている。 書類の上に積み重なっている服も、着ていないものだらけだ。 今すぐにどうにかしなければならない。 捨てたい。 要らないものを捨てたい。 僕は立ち上がった。彼女が急に、目の前に現れた気がして驚いた。 ずっとそこにいたはずなのに。僕は勢いよく息を吸い込むと、財布を取り出し、彼女に金を渡した。 え、…
2023/01/17 23:02