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入日くん https://irihikun.hatenablog.com/

本を年間約200冊読む内向的人間のちょっとした発信。夜になる前の入日の時間を楽しんでいただきたいブログです。

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2020/04/10

  • 僕だけじゃないんだろうけど

    太陽が沈むと、こんなにも寒い。そのことに僕は安心していた。太陽は照らしすぎる。 本当は、こんなにも冷え切っていて、 痛くて、透明な空気を、 ジリジリと燃やし、熱く、息苦しくしてしまう。 先生は胸ポケットからライターを取り出して、 タバコに火をつけた。 それくらいの灯りが、丁度いいと思った。 「生徒の前でタバコ、吸っちゃだめだろ」 先生は何も言わずに、大きく吸った息を、 さらに膨らませるように吐き出した。 透明な空気が汚れる。 この世界の悪いところは、それが綺麗に見えるところだ。 「無視かよ」 僕はほんのりと温もりを帯び始めたベンチから立ち上がる。先生がはっきりとこちらを向いたのが分かった。 「…

  • 子どもの家

    「可哀想だなって思った、色んな意味で」 「色んな意味で?」 少年は笑いながら聞き返してくる。 「本当に、子どもみたいな大人っているんだなって。ひと回り以上も年下の私にそう思われたことも、可哀想だよね」 「ふーん」と、少年は、ゴロゴロとした氷が入ったコップを傾ける。 飲んでいるのはオレンジジュースのはずなのに、 その大人びた表情のせいで、アルコールが入っているかのように錯覚してしまう。 「君は、なんていうか逆だよね」 「逆?」 「子どもなのに、大人みたいだ」 「あぁ」 少年は、ふっと、少しだけ頬を緩ませた。 「ここではね、たくさんの大人が、僕に話をしてくれるんだ。 お姉さんがさっき言ってたように…

  • 臆病なのは

    湊川は、チェストの上にある親指ほどの大きさの、ピンク色に塗られた塊を手に取った。 「例えば、これだよ」 うさぎのフィギュアだ。 「うさぎと私が、似ているということですか?」 湊川は私に、臆病だと言った。 うさぎの寂しがりやなところや、繊細なところが、私のびくびくしているところと一緒だ、ということだろうか。 「君はこれ、うさぎに見えるの?」 どう見てもうさぎだと思った。 ピンク色がうさぎを連想させたし、 いや、実際にはうさぎはピンク色ではないだろうが、絵になるとなぜかうさぎはピンク色で描かれることが多い。 私も、幼い頃はうさぎをピンク色で塗っていた。 それに耳は長く、細い前脚に対する後ろ脚の大き…

  • 真に受けた男

    すでに彼女のことは見えていなかった。 頭の中にだけ存在している視界にも、彼女の姿はなかった。 あいつが話していたことが、気になって仕方がなかった。 それが隠語かどうかは、もうどうでもよかった。 頭の中で、クローゼットの隅に置いている、 何年前のものか分からない書類の山が見えた。 それが僕を混乱させている。 書類の上に積み重なっている服も、着ていないものだらけだ。 今すぐにどうにかしなければならない。 捨てたい。 要らないものを捨てたい。 僕は立ち上がった。彼女が急に、目の前に現れた気がして驚いた。 ずっとそこにいたはずなのに。僕は勢いよく息を吸い込むと、財布を取り出し、彼女に金を渡した。 え、…

  • 脱落者

    「あぁ、俺らからもついに脱落者が・・・・・・」 カウンターに座る三人組。アルコールは三杯目だ。 その内の一人が嘆く声が聞こえる。 作り物のように光沢がある髪が目立つ。それぞれが向きたい方とは、おそらく逆に向けて固められている。 真ん中の一人を挟んで反対側に座るもう一人が、俯きながらグラスを傾けているのが見えた。 彼が脱落者、だろうか。 カチカチ髪の男が、身体を乗り出して、脱落者らしき男に言う。 「今が踏ん張り時なんじゃねぇの? 今がどん底だって。これから上がっていくしかねぇよ」 「・・・・・・皆、最初っから売れてた訳じゃないだろ!」 夢追い人か。 私はカウンターの内側で食器を洗いながら、彼らの…

  • 伸びる影よりもこわいもの

    夜になりきっていない、中途半端な時間だった。 近付いてくる。 片手にスマホを持ち、俯き加減で歩く女。 顔に髪が掛かっているが、ちらちらとこちらを見ては、 手元に視線を落としているのは分かった。 傾いた日が、黒くて細長い影を作り出している。それでも女は小さく見えた。 弱く見えた。 それが、この俺とすれ違おうとしている。 「おい、お前」 女はスマホに向けていた目線を、素早く俺に寄越してきた。 「お前、何こっち見てんだよ!!!」 俺は怒鳴りつけた。 今まで飲み込んできた言葉を、全て吐き出すように。 小さくて弱いやつには、そうしてもいい気がした。 一瞬手を震わせた女は、直ぐにハッとした表情を見せ、叫ん…

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