通り過ぎた山、あとになって知る縁——岩切権現との静かなつながり
あとになって思い返すと、不思議なほど記憶に残っている風景というものがある。 毎日通っていた通勤路の並木道、何度も信号待ちをした交差点の角にあった大きな木、あるいは車の窓越しに何気なく目にしていた山の稜線。そのときはただの背景にすぎなかったのに、なぜかずっと記憶に焼きついていて、ふとしたときに脳裏に浮かぶ。そんな経験は、誰にでもあるのではないだろうか。 私にとってのそれは、茨城県つくば市でのことだった。営業職として忙しく動き回っていた十六年間、毎日のように車を走らせ、各地の施設を訪ねていた。筑波山の麓の町。象徴的な双耳峰はもちろんよく知っていたし、地元では馴染みのある存在だった。 だが、私の記憶…
2025/07/16 08:20