前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** それまで私の中に残るものはなかった。ただ通り過ぎていくだけ。周りのもの全部がそう。血の繋がった母親でさえそうだったんだから、当たり前よね。ーーー今気づいたんだけど…。だから顔や名前を覚えられないのかも。新幹線の外を流れていく景色みたいっていうか…。うまく言い表せないわね。私ってこんなに馬鹿だっけ。 まあとにかく、いつだったかこんな会話をしたことがあったわけ。 あの人がある日唐突に尋ねたの。「お友達できた?」って。あれはまだ学校に通う前。五歳くらいのころだったかしら。いつもいつも同じようなことばかり尋ねてくるからそういう儀式…