小説・海のなか(34)

小説・海のなか(34)

前話はこちら。 kuromimi.hatenablog.com *** もう何度目かの物思いから回復すると、あたりは薄暮だった。つい先程までははっきりと見てとれた物の輪郭が一気に崩れ薄闇へ溶けようとしている。一瞬、自分の視力ががくんと落ちたかのような錯覚に襲われた。刻一刻と世界は曖昧さの度合いを強めていく。ふと、このまま盲目になってしまえたら、と思った。知らないということがどれほど幸福なことなのか、見えていないということがどれほど幸福なことなのか、わたしにはもう痛いほど分かっていた。 けれど、それでも知りたいと思うことは止められなかった。真実を知ることできっと支払うことになる代償。それがどれだ…