ある夏日のコンサート 招かれた客
音楽家の晶子さんから誘いがあった。チャリティーコンサートでコントラバスを演奏するから聴きに来ないか、というものであった。 打診を受けた時点では、その「チャリティー」の意味を深読みしておらず、即座に快諾した。人様からの誘いは先約が無い限りは断わらないようにしている。 コントラバスと言われてすぐにはピンと来なかったが、何やら大きそうな楽器だと考えるくらいの常識はあった。 黒いキャスケット帽を深く被ったショートカットの彼女は、コンサート会場である教会の入り口近くの階段下に立っていた。彼女の腕には何の楽器も見られなかった。 「今日は演奏でけへんねんて。上でやるはずやったけど
2021/08/29 05:31