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鳥羽散歩
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2018/12/24

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  • 大晦日の一首

    〇 本年はお節料理を高直(こうじき)で大晦日(おおつごもり)は合はぬ算用 鳥羽散歩⁅註⁆ 『大晦日は合はぬ算用』は、井原西鶴作『西鶴諸国ばなし』(巻Ⅲ)所収の短編小説であり、その概要を示すと、「ある浪人たちが宴会を開いた。客は七人。主催者も客も浪人である。宴会の途中、主催者の持っていた小判十両を包み紙ごと客に見せ、宴会の終わりに回収して枚数を確認したら、なんと一両足りず九両である。客たちの間に...

  • 今日の一首

    〇 老いぬれば朽木の洞に身を投げて命絶つとふ雀かなしも 鳥羽散歩 敗戦後のどさくさの最中に小学校に入学した私の夢のひとつに「焼き鳥をたらふく食う」ということがあった。 都会とは幾分事情が異なるが、北国の田舎町の住人である私たちは、年から年中お腹を空かしていて、その頃、町のあちこちに出来初めた一杯飲み屋の賑わいと、そのつまみの焼き鳥は、欠食児童の一人であった私の憧れだったのだ。 嘘か真かは...

  • 哀悼 篠弘 「独りして立つ」(<短歌>2022年・11月号掲載)を読む

    「独りして立つ」 篠 弘(まひる野)〇 カーテンにくれなゐきざす早暁にさやけき秋の日照を待つ〇 生涯の実像おほむね迫りきて腕時計の電池入れ替へにゆく〇 くづれたる歌書のたぐひを積み直し生きなづみくる齢と思ふ〇 時かけて歩みきたりて噴水のさわだつ池のおもて眩しむ〇 冷え込める季のはざまに食細くなりて迎ふる最熟年は〇 台風のそのつど洪水に亡くなりし御霊と会ひて去ら...

  • まままま

    〇 まがふなく人間われがただよひてデスクの隅のゴム輪を蒐む〇 麦畑の昏るるをゑがくゴッホの絵炎の芯が盛りあがりゐつ〇 酩酊のポーズをとりし背の芯に浴びせられたる声を忘れず〇 目薬の溢るるしづく掌に拭ふさびしきさまを二度くりかへす〇 芽ぶきそめて枯れし二本の白樺にこだはりてゐる中年われが〇 夕映ゆるさきがけとして柿の苗ひかりの列が立ち上がりたり〇 よどみなく企画の決まる感...

  • たたたた

    〇 大戦を凌ぎしレニングラードの白夜にうるむ星を仰げり〇 大理石の碧きを踏みて至福なる旅人われはダ・ヴィンチに立つ〇 宙吊りに窓拭くさまを目に入れて磯田光一の論を読みつぐ 〇 ドラえもんを「機械猫」と意訳して人民美術社そのままを出す 〇 のぼりゆく春の樹液の音を詠むこの帰郷者のことばがたぎつ〇 花の季の蜂の羽音にのぼりくるエレベータのボタンを押せり〇 はるかなるタワーに赤...

  • しししし

    〇 システムにしだいに与し損ねたる古代朝鮮史まなべる友が〇 疾風のしるきタべは昏れずして花狂(ふ)れそむる桐を見下ろす〇 首都高速のサイドをくねる神田川汚れしといへ雨脚ひかる 〇 主義なべて逆転しゆく呻吟にこの寒中は身にし沁むまで〇 知る顔のひとりとてなきロビーより留守番電話の妻の声きく 〇 十年を経て明るめる晩餐図聖(セイ)マタイそのたしかなる顎〇 数枚のコピーのずれを...

  • 哀悼 「篠弘第四歌集『至福の旅びと』(砂子屋書房・1994年)」を読む(其のⅠ)

    〇 いまだ解かぬ梱包ならぶ窓に見つテニスコートの白線のぶれ〇 会合にありて発言の機を待つに椅子軋ましむ若き一人が〇 海上にもの音ひとつなき刹那モノレールが金の鎖つらぬる〇 還らざるひと日は過ぎむ指をもてグラスにあそぶ氷片掬ふ 〇 返りくることばを待たむ直截に応ずる人は危ふかれども〇 革命の遺産となりし透きとほるスラヴをとめの白鳥の脚〇 簡潔につたふる若き通訳のことばは何...

  • 「内藤明第六歌集『薄明の窓』(砂子屋書房・2018年)」を読む(其のⅥ) 「歌集」という暗室の縛りから逃れ得た時、一首の歌は如何ほどの媚態を示し得るか?

    〇 まだ少し時間があれば聴かむとす野の鳥のこゑ梢吹く風 〇 むかしむかし水を湛ふる星ありと祖母が語りし日の繰れ方〇 もう少しゆけばかならず楽になる楽になるとぞ歩み来たれる 〇 もしやわれ躁にてあらむか次々と安請け合ひを重ねきたりぬ〇 やり直しきかぬ齢と知る時に空也の脛を思はざらめや〇 夕鶴の一羽飛び立つまぼろしを二十二階の窓に追ひゆく〇 ゆつくりとカッターの刃を押し出し...

  • 「内藤明第六歌集『薄明の窓』(砂子屋書房・2018年)」を読む(其のⅤ) 「歌集」という暗室の縛りから逃れ得た時、一首の歌は如何ほどの媚態を示し得るか?

    〇 夏草のやがて覆へる道ならむ近き記憶のかへることなし〇 並木道銀杏の葉より落ちる雨ときおり傘を強く打ちたり〇 韮の花白く浮き立つかたはらを汗垂りながらいづくへ帰る〇 伸びをして隣を見れば眼鏡なき猫の時間に秋の日は射す〇 花にあそび風とたはむれ水分の社の庭にまなこを瞑る〇 玻璃のそと渡り廊下を行く人は両手に髪を押さへつつゆく〇 春の雪遠く降るらしケータイの着信ランプが点...

  • 「内藤明第六歌集『薄明の窓』(砂子屋書房・2018年)」を読む(其のⅣ) 「歌集」という暗室の縛りから逃れ得た時、一首の歌は如何ほどの媚態を示し得るか?

    〇 絶え絶えに闇の底よりひびき来る消音(サイレント)ピアノの鍵盤(キー)敲く音〇 愉しかる一日なりけり事どもの軽き重きを問はざりしゆゑ〇 溜息のわれの口よりいづるらし夜の電車に四囲を見回す〇 通過点か行き着く先かわからねど死といふものがありて安らぐ〇 突つ立ちて葦吹く風を見てゐたり流され来たる朝のごとくに〇 手の甲に首の寝汗をぬぐひをりさを知らぬ中年のくび〇 天に向きは...

  • 「内藤明第六歌集『薄明の窓』(砂子屋書房・2018年)」を読む(其のⅢ) 「歌集」という暗室の縛りから逃れ得た時、一首の歌は如何ほどの媚態を示し得るか?

    〇 酒の味わかりはせぬが塩ありて豆腐のありてこの秋の夜〇 食卓を裏より見ればわが位置にビスの一つが外れてゐたり〇 「人類はまた戦ふよ」といひしとぞ空穂を想ひ忠一を思ふ〇 少しづつ形くづれてゆく雲かわれは見てをり眼の冴ゆるまで〇 それぞれの猫に七癖あるもので雑誌の小口で爪研ぐ夢二〇 存分に楽しみしゆゑ割れるのを待たずに捨てむ緑のグラス...

  • 「内藤明第六歌集『薄明の窓』(砂子屋書房・2018年)」を読む(其のⅡ) 「歌集」という暗室の縛りから逃れ得た時、一首の歌は如何ほどの媚態を示し得るか?

    〇 壁を指し鼠が走るといふ人の言をうべなふ、ねずみがはしる〇 感情が内へ内へと吸ひこまれ身動きとれぬからだなるべし〇 菊姫で口を浄めてのどぐろのねめる刺身を舌に載せたり〇 奇つ怪な形のままにふくらみて紙のマスクがベンチにわらふ〇 吉凶の間を生きゐて愉しかり灯火照らし自転車を漕ぐ〇 貴婦人の絹を紡ぎてはしけやし戦の船を購ひたりき〇 決めかねるこころを持ちて雨の道歩けば鳥の...

  • 哀悼 歌人・篠弘

    『電話会議に』 篠弘(まひる野)○ 柔らかき耳朶を指に揉みながら探しつづくる書棚のはざまに 作者ご自身の性癖とでも云うべき、日常生活の場面での何気ない動作。 「書棚のはざま」にネクタイピンや五百円玉などの小さなものを落としてしまうことはよくあることである。 そのうちに拾うつもりがそのままになってしまった子猫の指輪 ○ 必ずや出でてくるなり探さねばならぬ資料のあと二、三あり 結社の...

  • あさよみ 書き込み途上ではありますが、小用のため暫らくのあいだ失礼いたします。

    ディサービスの日 妹尾倫良 机に つっぷしている 若い女性スタッフとのおしゃべりも 戯れも いやだという 朝の体操も脳トレゲームも拒否 その真中に くず入れを放り投げた ━━やめえ そんなバカなことが できるか わしゃあ大学出じゃぞ 誰にも当らなかった 少尉どの歯の調子がよ...

  • あさよみ

    「小詩集」より 北村太郎 1 部屋に入って 少したって レモンがあるのに 気づく 痛みがあって やがて傷を見つける それは おそろしいことだ 時間は どの部分も遅れている 2 五月はみがかれた緑の耳飾り 二月は罐をける小さな靴 八月は錆びた西洋剃刀に裂かれた魚 3 夜 ...

  • あさよみ

    静物 吉岡実 夜の器の硬い面の内で あざやかさを増してくる 秋のくだもの りんごや梨やぶどうの類 それぞれは かさなったままの姿勢で 眠りへ ひとつの諧調へ 大いなる音楽へと添うてゆく めいめいの最も深いところへ至り 核はおもむろによこたわる そのまわりを めぐる豊かな腐爛の時...

  • あさよみ

    ただ過ぎ去るために 黒田三郎 Ⅰ 給料日を過ぎて 十日もすると 貧しい給料生活者の悉くは 次の給料日に集中してゆく カレンダーの小奇麗な紙を乱暴にめくりとる あと十九日 あと十八日と それを ただめくりとりさえすれば すべてがよくなるかのように あれからもう十年になる! 引揚船の油塗れ...

  • 「三枝昂之第十三歌集『遅速あり』(砂子屋書房・2019年)」を読む(其のⅠ)

    〇 哀楽を歌にかえたるやすらぎを想いて新聞選歌を終える 日経歌壇の選者としての実体験に取材した一首。実を申し上げますと、私もいつの年か、たまたま物は試しとばかりに投稿した作品が三枝昂之選の二席に入選し、存外のお褒めに預かったことがありました。 その折の私の場合も、「哀楽を歌にかえたるやすらぎ」に浸っていたのでありましょうか? 今となっては、何もかにも分からなくなってしまいました。〇 あした...

  • 「三枝昂之第十三歌集『遅速あり』(砂子屋書房・2019年)」を読む(其のⅥ)

    〇 まず風が、それから鳥が、やがて人が、はるか遅れて国が来し島〇 眉に雪 多摩丘陵が帰りゆくわれらが棄てし森の時間に 〇 水張田となりてととのう出羽の国かなたに雪の月山を置き〇 むきむきに角のとれたる消しゴムの出番少なき大小三つ〇 もうニュースは消しておのれに戻りたり非力な非力な言葉のために〇 桃の花咲く明るさや母の知らぬわれを歩みて十七回忌〇 呼びかけし心を今に受...

  • 「三枝昂之第十三歌集『遅速あり』(砂子屋書房・2019年)」を読む(其のⅤ)

    〇 七草に六つ足りないなずな粥この世に二人して食む〇 菜を刻む音かつぶしを削る音たぎりはじめる焙烙の音〇 農鳥はもう現れる…追いかけて追われて甲斐の二月三月 〇 肺年齢は大丈夫らしい呼気吸気いまだ冷たき空へと歩む〇 二十日月の明るさを言うメールありいつの世も人は人に告げたき〇 母の背で揺れながら見し花火あり甲府七夕大空襲の 〇 早過ぎたtake off だよ冬枯れの滑走路には夕日...

  • 「三枝昂之第十三歌集『遅速あり』(砂子屋書房・2019年)」を読む(其のⅣ)

    ○ 食べること飲むことそして歩くこと冬陽のように人恋うること〇 たんかんを分け合って食む五十年前の童女と童子にもどり〇 散る梅を流れる雪と見るこころ万葉集五の大友旅人〇 手のなかに胡桃ふた粒まろばせるふるさと甲斐のよき音がする〇 てのひらに一錠のせるあめつちの金木犀が散り敷くあした〇 てのひらに釘を打つ音雨の音いまもさまようわれらであろう〇 天頂を翔ぶ白鳥座また人を喪う...

  • 「三枝昂之第十三歌集『遅速あり』(砂子屋書房・2019年)」を読む(其のⅢ)

    〇 最初から廃墟であった青空の人民共和国という夢〇 里山に木の葉すくいて挙がる声おのこごの声その父の声〇 実朝がマッカーサーが今日われが仰ぐさねさしさがみの茜〇 シジュウカラに向日葵の種われに空メジロにみかん年が始まる〇 秋明菊は天上の花人々の粒々辛苦の外に咲く白〇 身体の不如意が一つ増えたことよき人が二人世を去りしこと〇 新米が届きて思う刈田という広さに帰る関東平野 ...

  • 「三枝昂之第十三歌集『遅速あり』(砂子屋書房・2019年)」を読む(其のⅡ)

    〇 甲斐が嶺の枯露柿を食み粉をこぼす多摩丘陵の夜の机上に〇 〈革命と恋〉という遠きこころざしもとより夏草ばかりであった〇 翳りなきあかるさとして素枯れたる一樹一樹も甲斐のみほとけ〇 河口まで三十二キロ堰堤はコサギ三羽を置きてせせらぐ〇 風を生むクロスバイクと漕ぐ脚とひかり隈なき河口へ走る〇 かたわらに居たのだろうか逝く水の面影橋の春のひととき〇 落葉松の針をつまみて手に...

  • あさよみ

    ⁅防衛費の増額⁆ 看過できぬ言行不一致 防衛力の強化をめぐり、岸田首相は「内容と予算、財源を一体で議論する」と再三繰り返してきた。しかし実際には「規模ありき」の予算に身の丈を超えた内容を詰め込み、肝心の財源は実体を欠くままでの見切り発車になった。重大な言行不一致であり、看過できない。 首相はおとといの安保関連3文書決定後の会見で、防衛費の安定財源確保について「今を生きる我々が未来の世...

  • あさよみ

    空蟬 作詩・作曲:さだまさし 名も知らぬ駅の待合室で 僕の前には年老いた夫婦 足元に力無く寝そべった 仔犬だけを現世(うつせみ)の道連れに 小さな肩寄せ合って 古新聞からおむすび 灰の中の埋火おこすように 頼りない互いのぬくもり抱いて 昔ずっと昔熱い恋があって 守り通したふたり いくつもの物語...

  • あさよみ

    ロボットは我々の仕事を取り上げてしまうのだろうか。 人々は.驚くほど長い間、そう問いかけてきた。英経済学者デイビット・リカードは、1821年に出版した「経済学及び課税の原理」の第3版に、「機械について」という章を加えた。産業革命初期の技術が、いかに労働者を傷つけ得るかを示そうとした。カート・ヴォネガットの1952年の小説「プレイヤー・ピアノ」は、自動化によってほとんどの雇用が失われた米国の近未来を想定し...

  • あさよみ

    焼き豆腐 妹尾倫良 となりの学区に 使いを命じられた いくつかの集落と 田んぼ道を歩き 出雲街道沿いの バス道 東へと 小さな店に近づく 人気のない店に 声かけして待つ そこで また 待った 何かの気配があった 見ると裏のコンクリートの土間 七輪が ひとつだけ 網がかかって 豆腐が一つ 焼けている ...

  • 「辻聡之処女歌集『あしたの孵化』(短歌研究社・2018年)」を読む(其のⅡ) 「歌集」と云う腐臭が立ち込める雑居房から解放されたとき、「連作」と云う鎖帷子の拘束から逃れ得たとき、一首の短歌は如何なる「風流踊り」を演じることが出来るのだろうか?

    〇 喝采まで遠き海辺に立ちながら練るほど銀にひかる水飴 「水飴」を作る曲芸で拍手喝采を浴びている光景を、私はかつて川崎大師の境内で視たことがあります。 彼の曲芸師は、自らの商品である水飴を、参道内の葛餅販売店の柱に打ち付けて練っていたのであったが、私達参詣者は勿論のこと、件の葛餅販売店の従業員の方々さえも、その有様を呆気に取られて傍観しているばかりでしたが、そんな時、突如として後方から拍手喝采...

  • あさよみ

    雪の日に 吉野弘 ――誠実でありたい。 そんなねがいを どこから手にいれた。 それは すでに 欺くことでしかないのに。 それが突然わかってしまった雪の かなしみの上に 新しい雪が ひたひたと かさなっている。 雪は 一度 世界を包んでしまうと そのあと 限りなく降りつづけねばならない。 純白をあ...

  • 「辻聡之処女歌集『あしたの孵化』(短歌研究社・2018年)」を読む(其のⅠ) 「歌集」と云う腐臭が立ち込める雑居房から解放されたとき、「連作」と云う鎖帷子の拘束から逃れ得たとき、一首の短歌は如何なる「風流踊り」を演じることが出来るのだろうか?

    〇 青から黄、赤へとうつる信号機おまえはわかりやすくていいね 交通信号機の色は「青・黄・赤」と極めて単純で見分けやすい。 但し、本来は「緑」というべきを「青」と言ってるのは、情操教育上あまり良いことではありません。〇 悪意から遠き足裏ちいさくてふれれば魚のように逃げゆく 炬燵に入っていて、向う側に入っている彼女の足裏に「へのへのもへじ」なんかを書いたりして悪戯しているのである。 彼女の脚は...

  • あさよみ

    鎮魂歌 木原孝一 弟よ おまえのほうからはよく見えるだろう こちらからは 何も見えない昭和三年 春弟よ おまえの二回目の誕生日にキャッチボオルの硬球がそれておまえのやわらかい大脳にあたったそれはどこか未来のある一瞬からはね返ったのだ泣き叫ぶおまえにはそのとき 何が起こったのかわからなかった 一九二八年 世界の中心からそれたボオルが ひとりの支那の将軍を暗殺した そ...

  • やややや

    〇 野菜ジュース満ちて光れる朝々を渡れネクタイを白き帆として〇 やってらんないすよと後輩 コピー機の排熱ほどの声に触れたり〇 幽霊の話題を挟む雑談の夜に湿りを帯びてゆく耳〇 雪の記憶語りて過ごす鳥たちも影へとかえる空の真下で〇 雪のなりそこない、おまえ、一心に袖を汚して溶けゆくのみの〇 ゆっくりと潜水しゆくウミガメのまぶたを水圧の手が閉ざす〇 夢と思うギャルの義妹も笑わ...

  • まままま

    〇 待ち合わせ場所へと続く国道にの看板 〇 まんなかにちいさな鱗てさぐりで探せばきみの背きみだと思う〇 みずからを誤字と知らざるかなしみを思えば十二月の街の火〇 水と塩こぼして暮らす毎日に水を買いたり祈りのごとく〇 みな白き家電並びぬ わたくしは汚れるために生活をする〇 水底に眠る海鼠の傍にはしゃぎいてきみがさざなみを産む〇 群れながら孤島のこころ貸し切りの車内で笑う職...

  • はははは

    〇 廃園を告ぐるプレート万緑に異界をひらくごとき白さで〇 ハエトリソウのごとき睫毛をひらかせて彼女は見たり義兄なるわれを〇 励ますという愉悦あり果実酒のグラスが濡らす紙のコースター〇 働いてお金をもらう咲いて散るようにさみしき自覚をもちて〇 はつなつの表面張力 卓上のゆるきグラスにわたしは満ちる〇 花園橋越えて植物園に到るきみの日傘に花の重力〇 花冷えにトリートメントの...

  • なななな

    〇 長雨に執務日誌は湿りたりペン先の鈍く沈みてゆきぬ〇 菜の花にあなたの遠くまぶしがるしぐさばかりが揺れやまざりき〇 ナポレオンは三十歳でクーデター ほんのり派手なネクタイでぼくは〇 二十数年ともに暮らしし弟の恋を知らざり知らざれど兄 〇 二十代最後の年が暮れてゆく時間を可視化する雪の窓〇 盗み見る義妹の腹にみっちりとしまわれている姪らしきもの 〇 望まれるように形を変...

  • たたたた

    〇 蛸を噛むきみを見ている上顎はぶれないきみの確かな頭骨〇 種を吐く 夕餉を終えて母の剥く八朔のそのひと房の翳り〇 たのしいと思う気持ちが静電気めいて近づくたびにはじける〇 食べられる野草図鑑よ話さずに忘れた春の話題のひとつ〇 誰ですかと問われる声で目覚めればしゅわしゅわという加湿器の音〇 父のめまいなおなおやまずのんのんと冬の蝸牛の眠りておれば〇 沈黙をチャイルドシー...

  • 「稀覯誌『短歌 現代短歌のすべて そして、ピープル』」の記事より(其の36) 昨今話題の「KADOKAWA」は、過去に於いてこんなにも素晴らしい『雑誌』を出版した、という輝かしい歴史を背負っている出版社なんだ!

    36 何故か定型である。角川源義 西洋近代文化の摂取をとって、明治以後八十年の歳月は決して短か過ぎたとは言えない。 にも関らず、近代文化の伝統を確立し、自由な批判と柔軟な良識に富む文化層として自らを形成することに、私たちは失敗して来た。 一九四五年以来、私たちは再び振出しに戻り、第一歩から踏み出すことを余儀なくされた。 今から二十八年前の五月三日の夜、角川源義は、角川文庫創刊の辞を、このように書い...

  • 「稀覯誌『短歌 現代短歌のすべて そして、ピープル』」の記事より(其の35) 昨今話題の「KADOKAWA」は、過去に於いてこんなにも素晴らしい『雑誌』を出版した、という輝かしい歴史を背負っている出版社なんだ!

    35 歌誹諧を殴り倒せ 「父」はいだかれている。 今、若い歌人たちはうたう。 たとえば、「父よ、ありがとう」と。 戦後という時代にあっても、「父」は文学に於ける歌誹諧だった。 戦後的否定の的、あらゆる「日本的なるもの」の象徴だった「父」。 伝統性・民族性・その他一切の否定されるべきものの象徴だった「父」。 新時代の到来は、「その「父」を倒し得た時だった。 誰もが否定せざるを得ず、倒さざるを得なかっ...

  • 「稀覯誌『短歌 現代短歌のすべて そして、ピープル』」の記事より(其の34) 昨今話題の「KADOKAWA」は、過去に於いてこんなにも素晴らしい『雑誌』を出版した、という輝かしい歴史を背負っている出版社なんだ!

    34 どこへ 失われた心の回復。 あらかじめ失われていたものの奪回。 それにこの五句三十一音がの定型を持って参加した者たち。 それがこれらの人々だ。 五音と七音との鬩ぎ合いの中から、ある者は血みどろに、ある者はやさしく、心のまるごとを表現しようとする。 或いは、表現し得ない闇を示すことで、心を伝えようとする。 そうするためには、何よりも信じるという行為が必要だ。 だから、彼らは、他ならぬこの定型の...

  • 「稀覯誌『短歌 現代短歌のすべて そして、ピープル』」の記事より(其の33) 昨今話題の「KADOKAWA」は、過去に於いてこんなにも素晴らしい『雑誌』を出版した、という輝かしい歴史を背負っている出版社なんだ!

    33 なにものか 言霊と自己の交感にまなこを開いたはるか昔から、膨大な数の情念に塗りたくられたこの詩型と詩語。 そこに自己の情念の一片を注ぎ込む時、古代から近代までの声々との激しい同化と異化が渦巻いて激流する。 草上に燃すひとたばの手紙、パスカルの妻を思う埴輪の目、生活を翔びたつ哀しみの鷹。 それらの一つ一つが同化と異化の言語痙攣の果てに一行の世界に定着するとき、歌は情念に塗りたくられたその満身創...

  • 「稀覯誌『短歌 現代短歌のすべて そして、ピープル』」の記事より(其の32) 昨今話題の「KADOKAWA」は、過去に於いてこんなにも素晴らしい『雑誌』を出版した、という輝かしい歴史を背負っている出版社なんだ!

    32 どこから いっさいの短歌的なるものの否定が提唱されて以後の文学の歩みと、この若い歌人たちの成長とは重なり合っている。 だが、いつの頃からか、歌を自己の表現の手段とし始めていたこの若者たち。 新時代の表現の旗手として小説があり、詩があった。 だが、歌い始めていたこのこの若者たち。 この若者たちに短歌のふるさとはない。 ものごころのついた時、すでにそれは断ち切られていた。 無い故郷を一人一人がさ...

  • 「稀覯誌『短歌 現代短歌のすべて そして、ピープル』」の記事より(其の31) 昨今話題の「KADOKAWA」は、過去に於いてこんなにも素晴らしい『雑誌』を出版した、という輝かしい歴史を背負っている出版社なんだ!

    31 if.…… あなた方は何を視ようとしているのか、という問いがある。その日常に常に向けられた低い俯きがちな姿勢は、なぜそうも穏やかなのか。 戦争の時代を飢えの記憶として持ち、歌との出逢いに、前衛短歌が在った幸と不幸をひきずり、それ故、多分あなたたちはひとにやさしすぎるのだ。 子供の妻に、男に女に、そして、この詩型そのものに、それはたとえば飢えの記憶がそうさせるのであっても、枇杷の艶やかな実に降る六...

  • 「稀覯誌『短歌 現代短歌のすべて そして、ピープル』」の記事より(其の25) 昨今話題の「KADOKAWA」は、過去に於いてこんなにも素晴らしい『雑誌』を出版した、という輝かしい歴史を背負っている出版社なんだ!

    25 ザ・ミレン 政治や社会を高らかにうたい、美を構築して、さまざまな成果を生んだ戦後短歌の流れの中で、自分たちの生活を凝視し続けて堅実な歌を詠み続けた人々がいた。 労働に勤しむ日々の視界にふときらめいて現れる海の夕日や、帰路の駅の時計にとり戻す自分の<現在>、それら生活の時間のかすかな抑揚がふと定型の韻律と触れ合う時、人々は低く、そして抑えがたく一首の短歌の中に自分の想いを連ねる。 万葉集の時代...

  • 「稀覯誌『短歌 現代短歌のすべて そして、ピープル』」の記事より(其の24) 昨今話題の「KADOKAWA」は、過去に於いてこんなにも素晴らしい『雑誌』を出版した、という輝かしい歴史を背負っている出版社なんだ!

    24 エロス エロスとは何か? それは結合である。 言葉と言葉が、観念と観念が結合して新しい何かが生まれ出てくる。 ここにエロスの本質がある。 ここに取りあげた世代の特徴の一つは、かつての第二次世界大戦のその戦いの日々の中に於いて、死と直接に向き合いながら生きた時間を持った、と、いうことである。 更に、その死と向き合って生きた長い時間の中から、ある日突然赦免された、と、いうことでもあった。 これら...

  • あさよみ

    ま夜中のせみ 中野重治 ま夜中になつて 風も落ちたし みんなねてしまふし 何時ごろやら見当もつかないのに 杉の木のあたりに居て ぢいつと言うて鳴く じつに馬鹿だ 東京帝国大学生 中野重治 顔の黄色いのがゐる 眼鏡がゐる 羽織 るぱしか 釦の直径が一寸もある外套...

  • 「池田裕美子第三歌集『時間グラス』(短歌研究社・2022年)」を読む(其のⅡ)

    〇 改憲論者ふえゆくこの国いよいよに九条の枷ふりほどかんと 「憲法第九条」は、私達日本人にとって、果たして「枷」なのか? 私達日本国民は、この条項を保持する国の国民であるが故に、辛うじて「生命を保持して来た」のでは無かったか? 日本国第二章 戦争の放棄 第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決...

  • あさよみ

    日本国憲法前文 日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民と協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その...

  • 「池田裕美子第三歌集『時間グラス』(短歌研究社・2022年)」を読む(其のⅠ)

    〇 あこがれはアンナ・パブロワの白鳥のパ・ド・ドゥー踊る白トーシューズ 「白トーシューズ」とは言え、靴なんかに憧れるとは、作中主体はなかなか複雑な御性格のお方ですね。 「あこがれはアンナ・パブロワ」といった辺りで止めておいたら如何かな?〇 いさかいてややに淋しき夕まぐれポトフに散らすパセリをきざむ 「ポトフに散らすパセリをきざむ」が、一首の<聞かせ所(=泣き所)>かも知れませんが、「味噌汁に...

  • 「本田一弘第四歌集『あらがね』(ながらみ書房・2018年)」を読む(其のⅥ) 「歌集」という拘禁から脱し得た時、「連作」という呪縛から逃れ得た時、一首の短歌の前には、如何なる恍惚境が待っているのか?

    〇 豆をもて誰を打つべし責任をなすりつけあひ四ねんが経ちぬ〇 みちのくのしのぶもぢづり誰ゆゑにわが産土を捨てねばならぬ〇 みづからの歌のおもひをまつすぐに語る高校生のこゑ愛(は)し〇 水無月の雨に濡れつつ学校の中庭に立つモニタリングポスト〇 むらぎもの心を痛むみちのくの身元不明のなきひとのこゑ〇 もしわれが十七歳であつたなら二十分ではたうてい詠めじ〇 やはらかき土凍らせて...

  • 「本田一弘第四歌集『あらがね』(ながらみ書房・2018年)」を読む(其のⅤ) 「歌集」という拘禁から脱し得た時、「連作」という呪縛から逃れ得た時、一首の短歌の前には、如何なる恍惚境が待っているのか?

    〇 はくれんは命のかたちひとりづつ死者の命のしろくふくらむ〇 八月のゆふべの開運橋を吹くしろたへの風よろこぶわれは 〇 枇杷の花香(にほ)ふゆふぐれ喪ひし人をおもへばにじみゆく白〇 福島に生まれしわれはあらがねの土の産んだる言葉を耡ふ〇 ふくしまの空気を吸って熟(みの)りたるあかつきといふ桃のゐさらひ〇 福島の子供の肥満増えてゐると文部科学省が発表したり〇 ふくしまの米は...

  • 「本田一弘第四歌集『あらがね』(ながらみ書房・2018年)」を読む(其のⅣ) 「歌集」という拘禁から脱し得た時、「連作」という呪縛から逃れ得た時、一首の短歌の前には、如何なる恍惚境が待っているのか?

    〇 たましひを信ぜずといふそのひとに福島に降る雪を見せばや〇 短歌甲子園終はればこの年の夏が終はるとゆかりさんいふ〇 田ん坊の語ることばを訴(うた)ふべし磐梯山のまなざしのこゑ〇 ちのみごのうぶ毛のやうなふくしまの桃のはだへを愛せりわれは〇 中間貯蔵施設受け入れざるをえぬ双葉の真土 不聴跡雖云〇 土にかへることなき土が保管場へ搬ばれゆくをわれら見るのみ〇 てのひらに雪の一...

  • 「本田一弘第四歌集『あらがね』(ながらみ書房・2018年)」を読む(其のⅢ) 「歌集」という拘禁から脱し得た時、「連作」という呪縛から逃れ得た時、一首の短歌の前には、如何なる恍惚境が待っているのか?

    〇 歳晩の夜を嬬とゐて目に見えぬ雪のことばをふたり聴きをり〇 さんぐわつじふいちにあらなくみちのくはサングワヅジフイヂニヂの儘なり〇 信夫郡信夫の山に除染土を搬出するといふ計画ありき〇 白川以北一山百文 東北を蔑みて来し犬の舌みゆ〇 白きものは畑をおほひ葱の葉の身のあをあをと直立つひかり〇 震災ののちに生まれしみどりごがもうすぐランドセルを背負(しよ)ふ春〇 震災の読み物...

  • 「本田一弘第四歌集『あらがね』(ながらみ書房・2018年)」を読む(其のⅡ) 「歌集」という拘禁から脱し得た時、「連作」という呪縛から逃れ得た時、一首の短歌の前には、如何なる恍惚境が待っているのか?

    〇 樫の実のひとりに生まれ死にてゆくことを肯ふにんげんなれば〇 「仮置き場なければ家の庭先に保管せざるを得なくなります」〇 官軍につち奪はるるのみならず言葉殺されてたまるものか〇 木苺の熟れゆくひかり母と伯父ふたりのゐない五年目の夏〇 帰還困難区域の野辺をさ走れるゐのししのなくこゑをきかずや〇 基地といふ土は要らない沖縄のそらにつながる福島のそら〇 くうかんはうしやせん...

  • あさよみ

    衆議院本会議での野田佳彦元首相による、故・安倍晋三元首相に対する追悼演説(2022年11月25日) 本院議員、安倍晋三元内閣総理大臣は、去る7月8日、参院選挙候補者の応援に訪れた奈良県内で、演説中に背後から銃撃されました。搬送先の病院で全力の救命措置が施され、日本中の回復を願う痛切な祈りもむなしく、あなたは不帰の客となられました。享年67歳。あまりにも突然の悲劇でした。政治家としてやり残した仕事...

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