罪、苦悩、希望、真実の道に関する考察(其の一 真実の道は)(其の二 人間の全ての失敗は)
「私たちに信仰が欠如しているとは言えまい。 私たちが生きているという単純な事実そのものが、 信仰の価値という面で、計り知れない価値があるだろう」 「ここに信仰の価値がある? 誰もが生きないわけにはいかないだけじゃないか」 「その『いかないだけじゃないか』という
「それから、何事も起こらなかったかのように仕事に戻った」とは、どれだけあるやも知れぬ、古い物語の決まり文句であるが、 実際にこのような事が起こるか定かではない。108. »Dann aber kehrte er zu seiner Arbeit zurück, so wie wenn nichts geschehen wäre.« Das i
誰もがAに対して、じつに好意的だ。まるで上等なビリヤードの台を、 偉大なる玉突き名人が現れるまで、 相当な腕の持ち主にも使わせずに手入れをして待っているようなものだ。 名人は台を丹念に調べ、 以前にできた瑕か瑾きんさえも容赦しない。その後、彼は玉を突き始める
謙虚さは、孤独な絶望者も含めて、 人との強い繋つながりを即座に与える。ただし、その謙虚さが、 完全にして永続的なものでなければならない。 謙虚さにそれが可能なのは、 真の祈りの言葉であり、敬いであると同時に最も固い結びつきであるからだ。 人との繋がりは祈りの繋
この現世における誘惑の手段と、この現世がひとつの移ろいであるという保証のしるしは、 同じものである。当然のことだ。 移ろうからこそ、現世は私たちを惑わすことができるのであり、それは真理に即している。最悪の事態は、 私たちが惑わされた後で、保証を忘れてしまうこ
お前は現世の様々な苦悩から、身を退くことができる。それはお前の自由に任されており、お前の本性次第だ。だが、この身を退くということこそ、お前が避けることのできる唯一の苦しみかもしれない。103. Du kannst dich zurückhalten von den Leiden der Welt, das ist dir
私たちをめぐる苦悩は全て、私たち自身が苦しむしかない。 私たちは皆、ひとつの肉体ではなく、 一連の成長を遂げているのであり、どのような形であれ、あらゆる苦悩をくぐり抜けているのだ。 子供が成長して老人となり、最後に死を迎えるのと同じように(どの段階でも、根本
罪はいつもあからさまな形で現れるため、すぐに感覚で捉とらえることができる。しかし、深く根を張ったものを引き抜くわけにはいかない。101. Die Sünde kommt immer offen und ist mit den Sinnen gleich zu fassen. Sie geht auf ihren Wurzeln und muß nicht ausgerisse
悪魔的なものに対する知識はあり得るが、それに対する信仰はあり得ない。なぜなら、現に私たちの身近に存在する以上に、 悪魔的なものはないからだ。100. Es kann ein Wissen vom Teuflischen geben, aber keinen Glauben daran, denn mehr Teuflisches, als da ist, gibt es
現在の罪深い状態を仮借なく確信していることよりも、 私たちにとって遙はるかに重苦しいことは、 私たちの儚はかない時間性がそのままの形で、いずれ永久に正当化されるかもしれないという、 微かすかな予感である。しかし、第二の予感はその純粋さによって、 第一の確信を
宇宙が限りなく広く、充実しているという観念は、 厄介な創造と気ままな自省とを、 極端なまでに混合して生じた結果である。98. Die Vorstellung von der unendlichen Weite und Fülle des Kosmos ist das Ergebnis der zum Äußersten getriebenen Mischung von mühevoll
苦悩とは、この現世においてのみ苦悩なのである。しかしながら、現世において苦悩する者たちが、どこか別の場所で、苦悩のために称賛されるようなことはない。 現世において苦悩と呼ばれているものは、 別の世界では、何も変わらずそのままであるが、 対立物から解放されるこ
この人生における歓びは、生そのものの歓びではなく、 私たちが、より高い生へ昇ることに対して抱く不安である。この人生における苦しみは、生そのものの苦しみではなく、その不安によって感じる自責の念である。96. Die Freuden dieses Lebens sind nicht die seinen, sonde
「悪」は時折、道具のように手で握られていることがある。 故にそれを自覚しているか否かに関係なく、 意志さえあれば、容易に脇へどけることができる。95. Das Böse ist manchmal in der Hand wie ein Werkzeug, erkannt oder unerkannt läßt es sich, wenn man den Will
人生を始める際の二つの課題。お前の生活圏を次第に縮小すること、 圏外のどこかにお前自身が潜んでいないか、 繰り返し検査すること。94. Zwei Aufgaben des Lebensanfangs: Deinen Kreis immer mehr einschränken und immer wieder nachprüfen, ob du dich nicht irgendw
心理学は、もうこのあたりでたくさんだ!93. Zum letztenmal Psychologie!
最初の偶像崇拝は、 確かに事物に対する怖れからであっただろうが、これと関連して事物の必然性に対する怖れ、さらにこれと関連して、事物への責任に対する怖れでもあった。この事物への責任は、途方もなく大きなものに思われたため、ただ一個の人間離れした偶像に託すことさ
ある単語の誤用を避ける方法。 何かを徹底的に破壊する必要があるときは、その何かをあらかじめ確保しておかなければならない。 壊れるものは自ずと壊れるものであり、 破壊することはできない。91. Zur Vermeidung eines Wortirrtums: Was tätig zerstört werden soll, mu
二つの可能性について。 自己を限りなく小さくするか、または自己など持たないか。 後者は完成にして無為であり、 前者は開始にして行為である。90. Zwei Möglichkeiten: sich unendlich klein machen oder es sein. Das zweite ist Vollendung, also Untätigkeit, das ers
人間には、三種類の自由意志がある。 第一に、この世に生を受けようとしたとき、 人間は自由であった。 言うまでもなく、これを今更取り消すことなどできない。 生き長らえることで、 当時の意志を貫徹しているならともかく、 普通は命を得ようとしていたころと別人になって
死は私たちの目前に迫っている、たとえば教室の壁にかけられた、アレクサンドロス大王の会戦の絵のように。 問題は私たちの行動によって、生あるうちに、あの絵を隠蔽いんぺいするか、抹消してしまうことだ。88. Der Tod ist vor uns, etwa wie im Schulzimmer an der Wand e
信仰とは、ギロチンのようなものだ。それほど重々しく、それほど軽やかである。87. Ein Glaube wie ein Fallbeil, so schwer, so leicht.
堕罪の罪以来、私たちは、 「善」「悪」を認識する能力において本質的に変わりはない。にもかかわらず、この点において私たちは、 自分だけの特別な長所を誇示しようとする。 本当の相違は認識を超えたところで、ようやく始まるものなのに、まるで逆に見えるのは、以下の理由
「悪」とは、ある特定の移行状態における人間の意識の放射物である。 元来、感覚的世界が仮象なのではなく、その放射物としての「悪」が仮象なのだが、 私たちの目には、感覚的世界のように映るのだ。85. Das Böse ist eine Ausstrahlung des menschlichen Bewußtseins in
私たちは楽園で生きるために創造され、 楽園は私たちのために用意されていた。やがて私たちの定めは変更されることになったが、 楽園の定めも変更されたとは語られていない。84. Wir wurden geschaffen, um im Paradies zu leben, das Paradies war bestimmt, uns zu dienen.
私たちが罪を負ったのは、 善悪を知る樹の実を食べただけでなく、 生命の樹の実を食べようとしなかったからでもある。 私たちのいる状態そのものが、罪過とは関係なく罪深いのだ。83. Wir sind nicht nur deshalb sündig, weil wir vom Baum der Erkenntnis gegessen haben,
なぜ、堕罪を嘆くのか? 楽園を追われたのは堕罪のせいではなく、 生命の樹を守って、その果実を食べさせなかったからだ。82. Warum klagen wir wegen des Sündenfalles? Nicht seinetwegen sind wir aus dem Paradiese vertrieben worden, sondern wegen des Baumes des Le
所詮、自分を破滅させるようなことを、誰も求めたりしない。しかし人によって、そのように見える場合は、―― たぶん、いつもそうだろうが ―― 以下のように説明できる。 人間の中に存在する第一の分身が何かを願っている。それは第一の分身にとって有益なものだが、この件
真理は分割することができず、 故に自らを認識できない。 真理を知ったなどと言い張る者は、 必ず偽っているに違いない。80. Wahrheit ist unteilbar, kann sich also selbst nicht erkennen; wer sie erkennen will, muß Lüge sein.
官能的な愛は、人を欺あざむき、 天上的な愛以上であると錯覚させる。 官能的な愛自体にそんな力はないが、 無意識のうちに天上的な愛の要素を含んでいるので、そのようなことが可能になるのだ。79. Die sinnliche Liebe täuscht über die himmlische hinweg; allein könn
精神は支えであることを止めるとき、初めて自由になれる。78. Der Geist wird erst frei, wenn er aufhört, Halt zu sein.
人と交際すれば、自己観察へと誘われるものだ。77. Verkehr mit Menschen verführt zur Selbstbeobachtung.
「僕はここに投とう錨びょうしない」と言った途端、 膨れ上がる高潮を全身に感じる ―― この感覚!ある空転。窺うかがいながら、おそるおそる、期待をかけながら、 答えが問いの周囲をうろついている。 相手の冷淡な顔を前に空しく求め、 最も無意味な方向へ、つまり答え自
人類そのものに対して、己を吟味すること。それは、懐疑する者をさらに疑わせ、 信仰する者をさらに信じさせる。75. Prüfe dich an der Menschheit. Den Zweifelnden macht sie zweifeln, den Glaubenden glauben.
楽園で破壊されたというものが、もともとすぐに壊れてしまうようなものであったなら、それは決定的なことではなかったのだ。しかし、絶対に壊れるはずのないものが、 破壊されたのだとすると、 私たちは誤った信仰の中で生きていることになる。74. Wenn das, was im Paradies
彼は、自分のテーブルからこぼれ落ちたものを貪むさぼり食う。その結果、少しの間、他の者より満腹感を味わうことができる。しかし、やがてテーブル上のものを食べることを忘れてしまい、そのため、食べかすも落ちてこなくなる。73. Er frißt den Abfall vom eigenen Tisch;
同一人物の中に、相異なる認識が居座っている。 認識対象が一つでも、その認識には大きな違いがあるのだ。 反対側から見た場合、何人もの異なる認識主体が同一人物の中から引き出せるほどだ。72. Es gibt im gleichen Menschen Erkenntnisse, die bei völliger Verschiedenh
破壊しがたいものは、一つである。それは個々の人間であり、 同時にそれは全ての人間に共通している。 故に人間同士による、ほかに類を見ないほどの分かちがたい繋つながりがあるのだ。70./71. Das Unzerstörbare ist eines; jeder einzelne Mensch ist es und gleichzeitig
理論的には、幸福になるための完璧な方法がひとつだけある。その方法とは、自分の中にある破壊しがたいものを信じ、それを磨くための努力をしないことだ。69. Theoretisch gibt es eine vollkommene Glücksmöglichkeit: An das Unzerstörbare in sich glauben und nicht z
家の神に対する信仰以上に、愉快なことがあろうか!68. Was ist fröhlicher als der Glaube an einen Hausgott!
彼は、あたかもスケートの初心者のように、 事実を追いかけて走る。しかも滑るのを禁止された、どこか危険な場所で練習した素人のように。67. Er läuft den Tatsachen nach wie ein Anfänger im Schlittschuhlaufen, der überdies irgendwo übt, wo es verboten ist.
彼は、自由にして安全な地上の市民である。なぜなら、彼が繋つながれている鎖は、どんな地上の空間でも自由に手に入れることができるほど長く、しかも地平の境界外に連れ去られるほど長くはないからだ。 同時に彼は、自由にして安全な天上の市民である。というのも、彼が繋が
罪、苦悩、希望、真実の道に関する考察 其の六十四/其の六十五
楽園からの追放は、その主要な点に関して永続的である。 故に楽園追放は決定的なものとなり、 現世における生活が避けられぬものとなったわけだ。しかしながら、この経過における永続性(もしくは時間的に表現するなら永遠の反復)は、私たちが、 楽園にずっと留まれたかもし
私たちの芸術とて、真実によって目め眩くらましされたものだ。 避けようと後ずさりする、しかめっ面つらに、なおも照りつけてくる光、それだけが真実だ、ほかにはない。63.Unsere Kunst ist ein von der Wahrheit Geblendet-Sein: Das Licht auf dem zurückweichenden Fratz
自分には、ただ一つの精神的世界しかあり得ない。その事実は私たちから希望を奪い、同時に確信を与える。62. Die Tatsache, daß es nichts anderes gibt als eine geistige Welt, nimmt uns die Hoffnung und gibt uns die Gewißheit.
この世界において隣人を愛する者は、この世界において自分自身を愛する者と、 不正をなしている点で同類である。はたして隣人など愛せるのか、という問題は残るが。61. Wer innerhalb der Welt seinen Nächsten liebt, tut nicht mehr und nicht weniger Unrecht, als wer i
この世界を捨てようとする者は、人間界をも捨てようというのだから、あらゆる人間を愛してきたのだろう。 故に彼は、愛するしかないという、 真の人間的本質を予感し始めるのだ。もっとも、彼がそれにふさわしいという前提の話だが。60. Wer der Welt entsagt, muß alle Men
無数の足跡によって深い穴ができていないような階段、それ自体は、つまらない寄せ木細工にすぎない。59. Eine durch Schritte nicht tief ausgehöhlte Treppenstufe ist, von sich selber aus gesehen, nur etwas öde zusammengefügtes Hölzernes.
可能な限り嘘を少なくすることができるのは、 嘘をつく機会が最も少ないときではなく、できるだけ嘘をつかないようにするときだけである。58. Man lügt möglichst wenig, nur wenn man möglichst wenig lügt, nicht wenn man möglichst wenig Gelegenheit dazu hat.
言語は、感覚的世界以外のことに対して、ただ暗示的に用いることしかできない。おおよそですら、比喩的な言語の使用は不可能なのだ。というのも、もともと言語は感覚的世界に対応しており、 所有とそれに関係する事柄のみを扱うからである。57. Die Sprache kann für alles
私たちの生来の資質からして、それらから自由でない限り、克服できない問題もある。56. Es gibt Fragen, über die wir nicht hinwegkommen könnten, wenn wir nicht von Natur aus von ihnen befreit wären.
自分自身に対するごまかしを最低限に行うか、普通に行うか、最大限に行うか、いずれにせよ、これら全てが欺ぎ瞞まんである。 第一の場合、「善」の獲得が容易であると見せかけようとするために「善」を欺あざむき、 「悪」にとって不利な条件を課すため「悪」を欺く。 第二の
ただ、精神的世界だけが存在する。 私たちが感覚的世界と呼んでいるものは、 精神的世界において「悪」であり、その「悪」なるものは、 私たちの永遠の発展における一瞬の必然性にすぎない。最も強い光を放つことによって、 世界を解体することが可能である。だが、弱々しい
ひとは、他人を欺あざむいてはならない。 同様に世界を欺いて、その勝利を掠かすめ取ってはならない。53. Man darf niemanden betrügen, auch nicht die Welt um ihren Sieg.
お前と世界の闘いにおいては、必ず世界の側に組すること。52. Im Kampf zwischen dir und der Welt sekundiere der Welt.
蛇の仲介が必要であった。 「悪」は人間を誘惑することはできても、 人間にはなれないのだ。 51. Es bedurfte der Vermittlung der Schlange: das Böse kann den Menschen verführen, aber nicht Mensch werden.(注)「蛇」は『旧約聖書』において、神の禁を破り、善悪を
人間は、自分の中に破壊できない何かが存在すると、 絶えず信じていなければ生きていけない。ただ、その破壊できない何かや、その存在を信じているということを本人が自覚しておらず、 隠されたままで終わってしまうことがある。この隠された状態は、様々な形で外に表れるが
Aは巨匠であり、天が彼の証人である。49. A. ist ein Virtuose und der Himmel ist sein Zeuge.(注)「A」を、ユダヤ民族の祖アブラハムとする説がある。
進歩を信じるとは、すでになんらかの進歩が生じた、と信じることではない。それでは、信じるということにはならない。48. An Fortschritt glauben heißt nicht glauben, daß ein Fortschritt schon geschehen ist. Das wäre kein Glauben.
王になるか、王の使者になるかを選択することになったとき、まるで子供のように、全員が王の使者になることを望んだ。だから、世の中は使者で満ち溢あふれているのだ。 彼らは世界中を奔走ほんそうしているが、もはや王がいなくなったため、お互いに無意味になった伝言だけを
ドイツ語の「ザイン」は、 「存在する」という動詞と「彼のもの」という所有代名詞、 二つのことを意味している。46. Das Wort »sein« bedeutet im Deutschen beides: Dasein und Ihmgehören.
お前が馬を増やすほど、 車の速度は上がるだろう。―― とはいえ、 巨大な岩を地盤から引き剥はがすのは無理な話だし、 革紐が千切れて、空車を引く馬が陽気に戻るだけだ。45. Je mehr Pferde du anspannst, desto rascher gehts — nämlich nicht das Ausreißen des Block
この世界のために、お前自ら輓ばん馬ばの役を志願したとは、なんと滑稽こっけいなことか。 44. Lächerlich hast du dich aufgeschirrt für diese Welt.
猟犬たちはまだ、庭で遊んでいる。しかし、森という森ではすでに狩りが始まっているのに、動物たちは猟犬から逃げようとしない。43. Noch spielen die Jagdhunde im Hof, aber das Wild entgeht ihnen nicht, so sehr es jetzt schon durch die Wälder jagt.
反感と憎悪に満ちた頭を、胸の上まで深々と下げること。42. Den ekel- und haßerfüllten Kopf auf die Brust senken.
世界の不均衡は、幸いにも数量的なものでしかないようだ。41. Das Mißverhältnis der Welt scheint tröstlicherweise nur ein zahlenmäßiges zu sein.
ただ、私たちの時間に対する概念だけが、 最後の審判という呼び方をさせるのだ。 実際には、即決裁判なのだが。40. Nur unser Zeitbegriff läßt uns das Jüngste Gericht so nennen, eigentlich ist es ein Standrecht.
道は果てしなく続いている。 少しばかり引いても足しても、それは変わらない。なのに、誰もが自分の小さな物差しで量ってみようとする。 「確かに、量った分だけ君はさらに前進するだろう。そのことを、君のために忘れないでおこう」39b. Der Weg ist unendlich, da ist nich
「悪」に対して月賦払いは無効である。――にもかかわらず、 人は絶えずそれを試みようとする。こんなことは考えられないだろうか。アレクサンドロス大王は、若いころに軍事的成功を収め、 最強の軍隊を鍛え上げて、 世界を変革する意欲を自分の中に感じていた。にもかかわら
永遠の道とは、なんと容易に進めるものかと、 自分で驚いている人がいた。 要するに、彼は下り坂を突っ走っていたのだ。38. Einer staunte darüber, wie leicht er den Weg der Ewigkeit ging; er raste ihn nämlich abwärts.
君は所有しているかもしれないが、存在していない。このような主張に対する彼の答えは、 身体の震えと動悸だけだった。37. Seine Antwort auf die Behauptung, er besitze vielleicht, sei aber nicht, war nur Zittern und Herzklopfen.
以前は、なぜ自分の問いに返答がないのか、 理解できなかったものだ。 今は、なぜ問うことができると信じていたのか理解できない。いや、当時の僕もまた、信じてなどいなかった。ただ、問うていただけだ。36. Früher begriff ich warum ich auf meine Frage keine Antwort b
所有などなく、ただ一個の存在があるだけだ。 最後の息を、絶息を願う存在があるだけだ。35. Es gibt kein Haben, nur ein Sein, nur ein nach letztem Atem, nach Ersticken verlangendes Sein.
彼の疲労ぶりは、まるで試合後の剣闘士のそれだった。だが、彼のやった仕事といえば、 役所の部屋の一角を白い塗料で糊塗ことすることだけだった。34. Sein Ermatten ist das des Gladiators nach dem Kampf, seine Arbeit war das Weißtünchen eines Winkels in einer Bea
殉教者たちは、肉体を軽視しているのではない。 彼らは己の肉体を十字架の上で高める。この点で、彼らは彼らの迫害者と一致するのだ。33. Die Märtyrer unterschätzen den Leib nicht, sie lassen ihn auf dem Kreuz erhöhen. Darin sind sie mit ihren Gegnern einig.
烏からすたちは、たった一羽の烏でも天を破壊することができると、やかましく主張する。確かにその通りだろう。しかし、それは天に対して何も証明することにはならない。 天とは、烏の不可能性を意味するからだ。32. Die Krähen behaupten, eine einzige Krähe könnte den
僕は、克こっ己きのための努力をしようとは思わない。 克己とは、無限に放たれて拡がる精神的存在の任意の場所で、 思いのままに働くということだろう。しかし、そのような輪を僕の周囲に描くくらいなら、僕はこの途方もない複合体を前に、 何も手をつけず、ただ呆然ぼうぜん
ある意味、「善」とはやるせないものである。30. Das Gute ist in gewissem Sinne trostlos.
「悪」を許容しようとするお前の内面に働きかけているのは、お前の下心ではなく、「悪」そのものの下心だ。その家畜は主人から鞭を奪って、 自分が主人になるために自分を鞭打つ。そしてそれが、主人の鞭紐の新しい結び目が生み出した、ひとつの幻想にすぎないことを知らない
一度でも「悪」を受け入れたなら、もはや「悪」はこちらの信頼を得ようとはしない。28. Wenn man einmal das Böse bei sich aufgenommen hat, verlangt es nicht mehr, daß man ihm glaube.
否定性を貫くこと、それが今でも私たちの課題である。 肯定性なら、すでに与えられている。27. Das Negative zu tun, ist uns noch auferlegt; das Positive ist uns schon gegeben.
匿かくまってもらうだけの場所なら無数にあるが、救いは一つだけだ。しかし、救いの可能性となると、隠れ家に匹敵するほど多い。一つの目標があっても、そこに到達する道はない。 普段、私たちが道と呼んでいるのは躊ちゅう躇ちょのことだ。26. Verstecke sind unzählige, R
そこへ逃げこむ場合を除いて、どうして世間を尊ぶことなどできようか?25. Wie kann man sich über die Welt freuen, außer wenn man zu ihr flüchtet?
お前の立っている地面が、 両足で覆い隠せる以上に大きく拡がることがないという、この幸福を理解すること。24. Das Glück begreifen, daß der Boden, auf dem du stehst, nicht größer sein kann, als die zwei Füße ihn bedecken.
真の対立者は、限りない勇気をお前に伝える。23. Vom wahren Gegner fährt grenzenloser Mut in dich.
お前は宿題と同じだ。 解いてやろうという生徒など、どこにもいない。22. Du bist die Aufgabe. Kein Schüler weit und breit.
とても堅く、この手が石を握りしめるように。とはいうものの、堅く握るのは、より遠くへ投げるためにすぎない。それに、あの程度の距離なら道が通じている。21. So fest wie die Hand den Stein hält. Sie hält ihn aber fest, nur um ihn desto weiter zu verwerfen.Aber
豹たちが神殿に忍びこみ、生贄いけにえの杯さかずきを飲み干してしまう。それが何度も繰り返されて、 最後に人々はその行為を予測できるようになる。こうして、それは儀式の一部になるのだ。20. Leoparden brechen in den Tempel ein und saufen die Opferkrüge leer; das w
「悪」に信頼されないようにせよ。 「悪」の前で秘密を持つことだって、できなくはないだろう。19. Laß dich vom Bösen nicht glauben machen, du könntest vor ihm Geheimnisse haben.
もし、塔そのものに登らないで建てることができたら、バベルの塔の建設も許されていたかもしれない。18. Wenn es möglich gewesen wäre, den Turm von Babel zu erbauen, ohne ihn zu erklettern, es wäre erlaubt worden.(注)「バベルの塔」は、『旧約聖書』創世記に登
こんな場所は、僕にとって初めてだ。息が乱れる。 太陽と並んで、さらに眩まぶしく、ひとつの星が輝いている。17. An diesem Ort war ich noch niemals: Anders geht der Atem, blendender als die Sonne strahlt neben ihr ein Stern.
鳥籠が、小鳥を探しに出かけた。16. Ein Käfig ging einen Vogel suchen.
まるで秋の道だ。 掃き清めても、すぐに枯葉で覆われてしまう。15. Wie ein Weg im Herbst: Kaum ist er rein gekehrt, bedeckt er sich wieder mit den trockenen Blättern.
もし、お前が平原を歩いていて、 歩こうという意志を充分持っていながら引き返すのであれば、これは絶望的なことだろう。しかし、お前は断崖絶壁をよじ登っており、 遙はるか下からお前の姿が見えるような場所にいるのだから、 岩盤の脆もろさだけを理由に、引き返す可能性も
人間としての認識が最初に生まれる兆候のひとつ、それは死にたいという願望である。そんな時、この人生は耐え難く、 別の人生には手が届かないように見える。 人はもはや死を望むことを恥とは思わない。 嫌でたまらない古い独房から、いずれ嫌になるに決まっている新しい独房
人間が抱き得る見解の多様性、それは林檎ひとつとってみても明らかだ。 食卓の上の林檎を見るため、 精一杯首を伸ばさなければならない子供の見解と、その林檎を手にして、 自由に客に差し出すことができる一家の主人の見解。11./12. Verschiedenheit der Anschauungen, die
Aはひどく自うぬ惚ぼれていた。 彼は、自分が「善」において大いに進歩したと考えている。その証拠は、自分が人を惹ひきつける存在になったからこそ、今まで無縁だった様々な方面から、より多くの誘惑に曝さらされるようになったのだ、と。しかしこの場合、正しい説明は、
「悪」の使う最も効果的な誘惑の手段は、闘争への挑戦である。それは、ベッドの中で終わる女たちとの闘いのようなものだ。 7. Eines der wirksamsten Verführungsmittel des Bösen ist die Aufforderung zum Kampf.8. Er ist wie der Kampf mit Frauen, der im Bett endet.
人間の発展における決定的瞬間とは、 一度限りのものではなく、絶えず訪れようとしている。 故にこれまでの全てを無効だとする革命的精神運動は正しい。なぜなら、その時点ではまだ、何事も起こっていないのだから。6. Der entscheidende Augenblick der menschlichen Entwic
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