他者とのつながりを失った「僕」が救済される物語/村上春樹著『羊をめぐる冒険』(下)(講談社文庫)
自分の存在は他者という鏡を通して確かめることができる。他人がいるからこそ、自分がいる。ところが他者との関わりが全く失われてしまったとき、人は自分自身の存在を確かめることはできない。 主人公の「僕」は自分自身を映し出す鏡をすべて失ってしまった。妻を失い、故郷を失い、仕事も失い、友も失った。他者とのつながりを失ってしまった時、自分の存在はどこでどうやって確かめたらいいのだろう。 『羊をめぐる冒険』は自分の存在を見失ってしまった「僕」が救済される物語だ。だからこそ、この小説はまぎれもなく「僕」の物語であり、まぎれもなく青春小説なのだ。 村上春樹著『羊をめぐる冒険』(下)(講談社文庫) ざっくりとした…
2019/01/11 00:07