海
夏前くらいから漠然と海に行きたいと思っていた。駅から静かな商店街を抜けて、潮風が流れてくる道の向こうに広がっている青が見えた。トンネルを抜けた先の海岸は、わたしの生きる灰色の世界とは別世界だった。 白い砂浜で貝殻を拾ったり、膝まで海に浸るくらいの場所をひたすら歩いたり、スナック菓子を奪い合うカラスを見つめていたりしていた。そのあとは、ずっと海を見て、好きな音楽と波の音を同時に聴いていた。海から目が離せなかった。いつもならスマホをみてしまうのに、引いて寄せる波と、レースみたいな波の白さと動きに心が緩んでいった。失恋したら海にいくなんて、考えが昭和だろうか。海が好きなのに、海は遠いと思い込んでいて…
2024/09/26 01:20