研究者になる前に
ある日の研究室に、旦那さんと娘さんと手を繋いだ真ん中になって、ひとりの院生がやってきた。 お母さんがどんなところで研究をしていたのか、最後に見せてあげたかったのだそうだ。 彼女はこの世界を去っていく。 あきらめて去っていく。 「あなたの論文が(査読を)通ったのが最後の決め手になりました」と笑っていた。 こういう時のこの世界の人は、笑っているからこそこれが100%の本心なのだ。 ああ、こんな形での人の殺し方もあるんだなと思った。 俺は研究者になる前に殺人者になっていたのだった。 この2年弱の間だけでも、自分より優秀な人が去っていく姿を何回か見送った。 優秀って何だろうね? そして優秀に何の価値が…
2024/01/30 23:18