高野和明の『踏切の幽霊』
◇『踏切の幽霊』著者:高野和明2022.12文芸春秋社刊作者11年ぶりの新作。まず題名がストレートでいい。読み始めてすぐに単純な心霊ものではないことがわかった。踏切の心霊写真をきっかけに、今は女性誌の取材記者だが、元社新聞社会部記者が踏切付近の殺人事件との奇妙な符合を手掛かりに手堅く関連事実を追って行き、盛り場世界、裏社会、政治家の汚職、殺人などを手繰りながら巧みにエピソードを織り交ぜ、読者を倦ませない手口が憎い。主人公の元新聞記者松田は愛する妻を亡くして2年、今は泣くことにも慣れた。心霊写真を初め殺人事件の被害者でもある「髪の長い細身の女」を追跡するにつれて、作り笑いで周囲をはぐらかして生きるしかなかったその女の哀れな育ち、過酷な人生に深い同情を覚えて彼女を死に追いやった人非人に果敢に立ち向かう一徹さが...高野和明の『踏切の幽霊』
2023/08/28 14:52