詩人の珈琲 【珈琲游人の旅<第2回>】
朝、一杯のコーヒーを淹れる。至福のひととき。コーヒーの淹れ方は、故郷の町の画廊喫茶の店主の方法を習得した。そのオヤジは苦みばしった渋い男で、詩人で、元・左翼運動の闘士だということだったが、普段は物静かで、はにかんだような笑顔で若者たちに接してくれた。顔に刻まれた深い皺、肩まで垂らした長い髪、時々鋭い光を放つ眼などが、画廊と喫茶とが連結された空間によく似合っていた。まだ二十代前半だった私たちは、その店に通いつめ、絵のこと、文学のこと、音楽のこと、酒やコーヒーに関する薀蓄などを聞かされ、学んだ。豆は、市販の浅煎りの豆が入手できればそれでよろしい。手挽きミルが理想的だが、電動ミルでも、挽きながら目盛りを段階的に変化させ、粉が不ぞろいになるように加減して挽けばよい。紙フィルターに一杯の粉を入れ、その粉全体が漏斗状...詩人の珈琲【珈琲游人の旅<第2回>】
2025/07/13 09:09