小説を書きたがらない小説家

小説を書きたがらない小説家

庄司薫と言っても、今の若い人は知らないか、知ってはいても読んだことがないかもしれない。その彼が本名の福田章二名義で書いた作品で中央公論新人賞を受賞してから10年ほど沈黙した後、『赤頭巾ちゃん気をつけて』で芥川賞を受賞した際に「その間、何をしていたのか?」とインタビューで訊かれて、「テレビを見ていました」と答えたそうだ。当時は人を食った発言だと思われたようだが、同じ答えを今やれば「引きこもりだったのか?」と思われて、気まずい沈黙が流れるかもしれない。『赤頭巾ちゃん気をつけて』は簡単に言ってしまえば東大紛争を背景にしたサリンジャー風の小説と言っていいだろう。ぼくはサリンジャーを読んでいないけれど。彼はかれこれ40年ほど小説を書いていないし、もう80歳だからこれまたサリンジャーのように沈黙したままあの世に行くのだろう...小説を書きたがらない小説家