『あるく』(小題:歩く)

『あるく』(小題:歩く)

カテゴリー;Novel※軽めのホラーになります苦手な方はお戻り戴きますようお願い致します横溝正史という作家の作品に「夜歩く」というものがある。初めて読んだのは中学生だったろうか。内容はあまり覚えていないが、タイトルと夢遊病という状態だけは憶えている。秋の澄んだ大気。晴れた日の宵闇に浮かぶ月。その月明かりに浮かび上がった人のシルエット。残業帰りの道、時刻は十時を回っていた。朝晩の寒暖差は日毎に大きくなり、昼間出かける時の装いだと風邪をひきそうな冷たい風が吹く。いつもの住宅街には街頭があり、暗い場所は殆んどない。ただ一ヶ所だけ、通りの奥にある空き家の脇道だけは違う。少し小高い丘に向かう細い道には木が葉を繁らせ、月明かりも街頭も届かない。俺の家はその空き家の向かいだ。歩いてきた住宅街は都会の明るさであるが、俺の家と向...『あるく』(小題:歩く)