神国編 第一章
――その青い一迅の風が、決闘の決着を暗示させた。草を刈る切っ先が、赤い花弁を巻きあげ、鈍い褐色の火花を散らす。影を背負うようにして佇む二人の剣士は、お互いの譲れぬ思いを、夜の帳を引き裂くようにして剣に乗せた。不意に風が去った。ジルバは下段を刈る。リアは直線に突いた。「ジルバ……」「兄様の勝ちです」膝から崩れ落ちるジルバに向かって、リリは駆け寄った。それは無意識であった。気付いた時には、リリはジルバに覆い被さっていたのである。リリは、自分がとったこの行動の意味を理解していた。いや、前々から知っていたのである。――この人間が他のどんなものよりも愛おしい、と。「……お願い。殺さないで……」「殺すな、と……。貴女は確かに、今、殺すなと言ったな。――これは、驚いた。死の精霊は、たとえ宿主が死んでも朽ちたりはしないのだが。...神国編第一章
2010/02/20 17:01