STOP! 桜さん! (その4)
黒曜のことは母から聞いたことがあった。住吉三神をお祀りするようになる前からの、この杜の本来の祭神。水と音楽の女神。琵琶を弾くので弁天さまとも呼ばれている。月明かりにぽうっと白く浮かぶクジャクソウの花に囲まれて、黒曜は琵琶を爪弾いていた。何かの曲を演奏してるというより、気持ちのままに、思いつくままに、音を出しながらハミングしている。真っ直ぐな黒い髪は地面につきそうな長さだ。中国風というより、奈良時代とか平安時代の貴族がこんな服を着ていたのかな、という衣装。音楽の邪魔をしたくないと思っていたはずなのに、その姿を見たら思わず口をついて名を呼んでしまった。「黒曜」黒曜はすぐに気づいてこちらを見ると、うれしそうに顔を輝かせた。「葵」私の名前を知ってる?黒曜は続けて何か言いかけたが、その言葉は聴こえなかった。何か私に...STOP!桜さん!(その4)
2024/09/30 11:58