■鉄の匂い287■
美千代さんは、父親の部屋からゴルフのアイアンを持ち出してきた。二度三度、縦に素振りをした後、アイアンのヘッドを思い切り父親の足の甲に振り下ろした。パシンッと、想像していたよりも軽い乾いた音が居間に響いた。余程痛かったのだろう。父親は痙攣というレベルではない動きで痛みを表現した。まるでロボットバイブレーションダンスを寝たまま踊る老人だ。10秒程の間を空けて、美千代さんは脛・膝・太腿・腰・下腹部と段々上半身に打撃の標的を移していく。殴られる度に、尺取虫の様に伸縮していた父親は、やがて力尽きたのか当たった瞬間だけしか反応しなくなった。手の甲・手根・前腕・肘窩・上腕と殴った処で、美千代さんは父親の口のガムテを剥がした。口の中からはビールの泡みたいな赤い液体が流れ出た。もう喋る気力もないらしく、顎を動かしはするが言葉には...■鉄の匂い287■
2019/08/31 23:04