■鉄の匂い059■
自分を俯瞰で見れたのには、もうひとつ理由があった。『僕』を置き去りにして勝手に自分らの感情を楽しむ園児にシラけたのとは別に、だ。この前日。つまり転園を父から告げられたその日。幼稚園から戻ると、いつもは居ない父が家に居た。『僕』は父が大嫌いだった。その日の気分で怒ったり褒めたりする父を嫌悪していた。だから家の玄関に入り、脱ぎっぱなしで片方が引っ繰り返った父の靴を見た時。『僕』の意識は背中から離れ高く空に昇り『僕』を見下ろした。すななち。今ここに居る自分はこれから父と対面して憂鬱な時を過ごさねばならないが、空に浮かぶ自分は対面する自分の背中を見ているだけで憂鬱な時を共有しない。そう思い込むことで父と対峙する憂鬱を昇華したのだ。この現実逃避という対処法が当時の『僕』を救ったのだが、同時に闇も色濃く澱ませてもしまった。...■鉄の匂い059■
2018/12/31 20:14