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  • 【2820冊目】伊藤亜紗・中島岳志・若松英輔・國分功一郎・磯崎憲一郎『「利他」とは何か』

    「利他」とは何か (集英社新書)作者:中島岳志,若松英輔,國分功一郎,磯崎憲一郎集英社Amazon 「利他」が、コロナ禍で注目を集めているという(ホントに?)。でも、利他って一体なんなのか。今もっとも脂の乗った5人の論者による論考。とにかくメンバーがめっぽう豪華だ。いわゆる大御所ではなく、思想や創作の第一線で活躍している「イキのいい」メンツばかりを揃えている。「利他」というキーワードながら、扱っているテーマが幅広いのもいい。しかも、それぞれが意外な形で「利他」につながっている。親鸞の「他力」を取り上げた中島岳志、意外なところでなんと柳宗悦の「民藝」と利他をつなげた若松英輔、小説の書き手の立場か…

  • 【2819冊目】ロバート・L・スティーヴンソン『ジキルとハイド』

    ジキルとハイド (新潮文庫)作者:ロバート・L. スティーヴンソンShinchosha/Tsai Fong BooksAmazon 小学生の頃に児童書バージョンで読んで以来でしょうか。もっとも、読んだことはなくても、ほとんどの人がどういう話か知っているという意味では、文学史上もっとも公然とネタバレされている小説でしょう。再読してみて、あらためてそのことを強く感じました。なぜかといえば、本書のメインであるジキル博士のところに出入りしている謎のハイド氏、突然のジキル博士の失踪、ハイド氏にかかる疑惑といったサスペンス要素が、「ジキルとハイドは同一人物である」ことを知っている時点でほぼ成り立たないので…

  • 【2818冊目】凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』

    滅びの前のシャングリラ作者:凪良ゆう中央公論新社Amazon 1か月後に地球に小惑星が激突し、人類が絶滅する世界での物語。似たような設定で思い出すのは伊坂幸太郎『終末のフール』だが、あちらは年単位の猶予があったので、どこか静かで達観した印象があった。一方本書は、いきなり1か月後。なので、人々は自暴自棄になり、ほとんどの人は仕事などしなくなるので社会インフラは崩壊し、略奪と暴力と得体の知れない新興宗教が横行するバイオレンスな世紀末世界になっている。そんな世界で生き抜こうとする「家族」の物語が、主人公を代えて第1章から第3章まで続き、最終章は突然、ある歌手の物語になる。もちろん彼らの物語は最後には…

  • 【2817冊目】小川三夫『棟梁』

    技を伝え、人を育てる 棟梁 (文春文庫)作者:小川 三夫文藝春秋Amazon 本当に大事なことだけが詰まった、ホンモノの仕事論。本当に大事なことは、言葉で伝えるのは不可能だ。だから、本書は「伝え方」自体を教える本になっている。聞き書きの名手、塩野米松さんによって引き出された「ホンモノの棟梁」の言葉は、声色や息遣いまで聞こえてきそう。著者が設立した「鵤(いかるが)工舎」は、全員が一緒に住み込み、仕事も生活も共にするところからはじまる。人を知るには、仕事だけ見ていてもダメだからだ。特に「掃除」と「料理」をやらせると、そいつの本質がわかるという。集団生活は、仕事に「浸りきる」ためにも必要だ。著者自身…

  • 【2816冊目】ラフカディオ・ハーン『小泉八雲東大講義録』

    小泉八雲東大講義録 日本文学の未来のために (角川ソフィア文庫)作者:ラフカディオ・ハーンKADOKAWAAmazon 明治時代、お雇い外国人として東京帝国大学で教えていたラフカディオ・ハーンの講義録である。ハーンといえば『怪談』の著者小泉八雲であるが、本書はそのハーンの文学観や日本への想いがつぶさに語られている。『怪談』とのつながりで言えば、やはり外せないのは第2章「文学における超自然的なもの」だろう。夢や妖精、樹の精などについて正面から語った文学講義というのがすでに珍しいが、その語り手がかのラフカディオ・ハーンなのである。ちなみにここでハーンが言う「夢は、利用の方法がわかっている人間にとっ…

  • 【2815冊目】姫野カオルコ『昭和の犬』

    昭和の犬 (幻冬舎文庫)作者:姫野カオルコ幻冬舎Amazon しょっちゅう理不尽な怒りをぶちまける(本書では「割れる」と表現。うまい言い方だ)シベリア帰りの父と、自分の娘のこととなるとこれっぽっちも認めない母のもと、昭和33年に生まれた柏木イク。いささかアブノーマルな両親、声が極端に聞こえづらい(これ、私もそうなので、気持ちはよくわかります)ため無視されやすいイクの、やや微妙な、でもやっぱり平凡といえば平凡な昭和の家族の日々を淡々と描いています。そして、その人生には、いつも犬がいたのです。犬と共に過ごした故郷・滋賀県での、そして大学に入り上京した東京での日々。こんなふうに書くと、なんだかあまり…

  • 【2814冊目】立松和平『道元禅師』

    道元禅師〈上〉 (新潮文庫)作者:和平, 立松新潮社Amazon 道元禅師〈中〉 (新潮文庫)作者:和平, 立松新潮社Amazon 道元禅師〈下〉 (新潮文庫)作者:和平, 立松新潮社Amazon とてつもない本でした。単行本で上下巻、計1,000ページ以上(その後三分冊で文庫化されたようですが、私が読んだのは単行本でした。リンク先は文庫本の方にしておきます)というボリュームに加え、物語としてはそれなりの紆余曲折はありますが、どちらかというと淡々としたもの。にもかかわらず、圧倒的な引力のようなものがあって、読み始めると止まらない。滔々と流れる、しかし底まで澄み通った大河のような、実に不思議な、…

  • 【2813冊目】信田さよ子『カウンセラーは何を見ているか』

    カウンセラーは何を見ているか (シリーズケアをひらく)作者:信田さよ子医学書院Amazon カウンセラーは感情労働?カウンセラーの仕事は「傾聴」し「共感」すること?カウンセラーがやっているのは「心のケア」?カウンセラーは、相手の自己決定を促す仕事?いわゆる「一般的なカウンセラーのイメージ」といえば、こんなところだろうか。だが、こうしたイメージをお持ちの方が本書を読むと、びっくりすると思う。なにしろ、本書はこれらをすべてひっくり返す内容なのだから。おそらく著者の実践の「背骨」になっているのは、本書でも紹介されている、松村康平氏の言葉であるように思う。「共感なんかできませんよ。人の気持ちなんかわか…

  • 【2812冊目】結城浩『数学ガール』

    数学ガール作者:結城 浩SBクリエイティブAmazon 今さら『数学ガール』かよ、と思われるかもしれませんが、初版が出た2007年には、こんな人気シリーズになるとは思わなかったんです。「フェルマーの最終定理」「ゲーデルの不完全性定理」などの続編、「秘密ノート」シリーズ、さらにはなんと『行政法ガール』なんて本まで出るなんて。いやはや、おみそれしました。簡単に言ってしまえば「ラノベ+数学」なんですが、たぶん本シリーズの成功の秘訣は、ラノベ風味を取り入れながら、数学のほうをしっかり本格的に取り上げたことにあるように思います。この手の「やわらかめの本」では避けられがちな数式もガッツリ出てきますし、内容…

  • 【2811冊目】最相葉月『れるられる』

    れるられる (シリーズ ここで生きる)作者:最相 葉月岩波書店Amazon 軽いエッセイかと思って、何の気無しに読み始めたのですが、読むうちに背筋が伸びてきました。思いのほか、しっかり中身が詰まっています。境目について書いた、と著者自身が冒頭に述べていますが、むしろ「裂け目」についての本だと思いました。世界の裂け目。平穏でふつうの日常と見えていたものの裏側にあって、何かの拍子に突然あらわれるものです。たとえば第1章「生む・生まれる」では、人工授精と出生児診断が取り上げられています。びっくりしたのは、NT(胎児頸部浮腫)のこと。これは妊娠9〜10週のころ、一時的に胎児の首の後ろに現れるむくみのこ…

  • 【2810冊目】ミカエル・ロネー『ぼくと数学の旅に出よう』

    ぼくと数学の旅に出よう―真理を追い求めた1万年の物語 作者:ミカエル・ロネー NHK出版 Amazon 最近、わけあって数学の入門書系の本を何冊か読んでいるが、その中でも本書は飛び抜けている。トピックの選び方、説明のうまさ、絶妙のユーモア、いずれも申し分ない。さすが新進気鋭の数学者にして、30万人以上が登録する「数学Youtuber」だけのことはある。 組み立て自体はとてもシンプルだ。旧石器時代の「手斧の対称性」や「数の起源」にはじまり、バビロニア、ギリシャ、インド、アラビア、そしてヨーロッパと、時代の流れとともに数学の歴史をたどっていく。その時代の文明の中心地できまって、数学が発展するのは、…

  • 【2809冊目】村上春樹『羊をめぐる冒険』

    羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)作者:村上 春樹講談社Amazon 羊をめぐる冒険(下) (講談社文庫)作者:村上 春樹講談社Amazon 村上春樹、初期の代表作です。一ヶ月まえに妻と離婚し、東京で広告の仕事をしている「僕」は、一枚の写真がきっかけで、羊をめぐる奇妙な冒険に出かけることになります。読んだのは20年ぶりくらいでしょうか。あらためて読んで、こんな筋書きだったんだ、と驚きました。それほどに、最初に読んだ時は、「僕」の繰り出す独特のレトリックと冷めた内面語りのセンスに酔うばかりで、これがどういうストーリーなのか、全然把握できていなかったのです。もっとも、今読んでも印象自体はあまり変…

  • 【2808冊目】アミール・D・アクゼル『「無限」に魅入られた天才数学者たち』

    「無限」に魅入られた天才数学者たち (〈数理を愉しむ〉シリーズ)作者:アミール・D・ アクゼル早川書房Amazon 無限という言葉を聞いて、どんなイメージが浮かぶだろうか。例えば「数」。1、2、3・・・と、数字はいくら数えても終わりがない(最も大きな数字を考えても、それに1を足すことができる)。また、無限は、案外身近なところにもある。例えば、0と1の間を半分に分割すると0.5だが、さらにその半分(0.25)、またさらにその半分・・・と分割を繰り返すと、何回割っても終わりがない。これもまた無限である。無限について考えていくと、奇妙な結論にたびたび出くわす。例えば19世紀の数学者ボルツァーノの方法…

  • 【2807冊目】宇佐見りん『推し、燃ゆ』

    推し、燃ゆ作者:宇佐見りん河出書房新社Amazon これはすごかった。新たな日本文学の誕生だ。言葉の熱量がすごい。それを完全にハンドリングして、ドライブする著者の腕力がすごい。現代的でありながらすべての年齢層に通じる、個性的で普遍的な文章がすごい。主人公の「あかり」は生きづらさを抱えた高校生だ。勉強はまったくできず、バイト先では失敗ばかり。病院で何かの診断を受けているらしいが(おそらく学習障害をともなう発達障害)、家族にはまったくその理解はない。つまり、家にも学校にも居場所がない。そんなあかりにとってもっとも大切なものが「推し」であるアイドルの上野真幸だ。「推しはあたしの背骨」であり「推しのい…

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