江戸 元禄 人模様 第一話 秋風 その2
浪人加藤一ノ辰は、品川の楼閣辰巳屋に番傘を納めた帰り道であった。高級和紙に達筆で「辰巳屋」と墨書して、油紙で仕上げた番傘は評判で注文も多かった。そろそろ、あたりが暗くなる夕七ツ゚金杉橋のたもとで橋の左側の欄干の下ににうずくまる若い娘がいた。右脇腹を押さえる姿があまりに痛々しいため一ノ辰が娘に近づいて声をかける。「娘さんどうしましたどこか具合が悪いのかな・・」娘はまだ十八くらいに見える。若く初々しい。首筋は汗でびっしょり濡れ、とても尋常には見えない。「少し下腹が痛いのですが・・」額は汗で光っている。「大丈夫でござるか。お送りしましょうか」娘はか細い声で、「お世話になり、ありがとうございます。急に、下腹が痛み出しまして・・しばらく休めば、大丈夫と思いますが・・・」「それはいけない。やはり送って参りましょう」か...江戸元禄人模様第一話秋風その2
2023/01/26 17:44