喜怒哀『楽』の徘介護

小鳥

るる、らるる、老母の見ゐる小鳥かな 「る」「らる」は受身の文語助動詞である。口語の「れる」「られ

2024/05/10 07:55

蟇

夕暮に庭掃く父や蟇の声 父の仕事を私が取り上げてしまった。父の負担を減らそうという考えからだった

2024/05/07 08:28

苺という字

はつなつの苺香れるわが家のくさかんむりは今も父なり 母が話しかけたり、呼んだりする相手は、断トツ

2024/05/04 10:35

葱坊主

葱坊主病めるものみな一括り 認知症とのつき合いも長くなった。母があと何年生きるかは分からないが、

2024/05/01 06:40

葱

夢の世を母生きわれは葱作る 不思議だ……。なんて明瞭に喋るのだろう。一人で幻と喋っているとき、寝

2024/04/28 08:22

穴惑

床擦れは耳にもありや穴惑 ある夜、耳が痛いと言う。脊椎間狭窄症の後遺症で腕や足の痛みを訴えること

2024/04/25 08:20

葉桜

父退院帰路は葉桜ばかりなり これを退院というのだろうか。やせ衰え、立つこともできず、ことばもほと

2024/04/22 12:41

何者

何者といふべきものになれぬまま かはたれのわれ たそかれのわれ 「かはたれ」「たそかれ」。どちら

2024/04/19 10:03

ひこばえ

死してより父とは言葉ひこばゆる 父はことばの人であったと思う。若い頃から仕事にも家事にも本当にま

2024/04/16 10:40

餅

問うておき話を聞かず餅食ふか 母は以前ほど喋らなくなった。ことばが出てこないせいもあるのだろうが

2024/04/13 10:03

秋日

母の便摘まんで出せる秋日かな 出た便の処理はまだいい。下痢便で大惨事ということもないわけではない

2024/04/10 08:16

苺

母に摘む今年の苺匂ひたる 苺は秋に苗を植えて、翌年の春に収穫する。一度苗を買うと、そこから蔓（ラ

2024/04/07 10:16

祝いのことば

今日はぼくの誕生日だよと母に言へば掛けてくれたことばは「おはよう」 母の語彙が痩せていく。それに

2024/04/04 07:51

春の星

春の星にじめる人を母とおもふ 努力をする母を見た記憶はない。口癖は「しんどいよ。せんよ」だった。

2024/04/01 09:18

毛布

遠からぬこと思ひつつ毛布掛く 父や母が80歳を過ぎた頃、一緒にいられるのもせいぜいあと7、8年だ

2024/03/29 13:53

野分

野分めく母より逃ぐる二メートル 珍しく母が怒った。機嫌の悪い日はあっても、他人に対して激しい口調

2024/03/26 08:31

虹

虹出でて老母の便も出でにけり 母の便が出ると、機嫌が直る。母ではなく私の。介護生活の喜・怒・哀・

2024/03/23 08:38

桃の花

菓子握りしめたる老母桃の花 母は糖尿病である。毎日私がインスリン注射をうつ。当然、医者からは「甘

2024/03/20 08:11

寒卵

寒卵老母の糧の限られて いまの母は、肉と魚はほとんど食べない。うまく飲み込めないらしく、たいてい

2024/03/16 09:35

子規忌

子規の忌のもう一献は律さんへ もし子規の時代に介護ベッドがあったら……。あるいは車椅子があったら

2024/03/13 08:18

ご挨拶

ようこそ、俳介護のページへ ご訪問いただき、ありがとうございます。 本サイトは、老母を介護する日

2024/03/10 10:04

合歓の花

老母まだおとぎの国に合歓の花 母が寝言をつぶやいている。その顔が笑っている。きっと楽しい夢を見て

2024/03/10 08:02

この人が好き

やはらかな目覚めの顔で「幸彦か……」とつぶやく母よこの人が好きだ 幸せよりも幸いがいい。もちろん

2024/03/07 16:23

春曙

春曙エンドレスなる母の問ひ 主語も目的語もない。曙に目覚めた母が、｢1にしたらどうなる？｣と問い

2024/03/04 07:50

雪女

雪女出でぬか母狂へるいま とは言え雪女にも都合はあろうが、母をどう宥めても収まらない日などは、い

2024/03/01 07:21

星月夜

さみしさが母から香る星月夜 身体がさみしさを発している。その夜、ベッドに三日月のような形で眠って

2024/02/27 07:46

素足

浮腫なき母の素足の小さきこと 母の足は夏でも冷たい。そして、いつもむくんでいる。心臓の機能が衰え

2024/02/24 10:03

紙風船

紙風船しぼみて子なる時了る 母が私の名前を呼ぶことはほとんどない。息子だと認識している時間はある

2024/02/21 06:56

冬菫

冬菫ちよんと突いて母を看に ｢菫程な小さき人に生れたし｣（※）夏目漱石。ある解釈には、この句の｢

2024/02/18 08:06

秋の夜

秋の夜の母の入れ歯の大・捜・索 ついに入れ歯は出てこなかった。車椅子のクッションの下、枕カバーの

2024/02/15 07:34

打水

打水をして往診の刻まだし 往診を待つ間というのはどこか落ち着かない。足を骨折して車椅子生活になっ

2024/02/12 08:01

父にもありけむ

母が吾を摩ってくるることもあり父にも然るときやありけむ 母が私をさすってくれる。母のベッドを低床

2024/02/09 08:53

梅

わが父は献身の人梅真白 父や母を詠んだ句に「わが父」「わが母」と詠んだ句はほぼない。もっともだ。

2024/02/06 07:05

風邪

三分の一ほど風邪という老母 母の嚏は一回では終わらない。なぜか一度くしゃみが出ると、十回近く続く

2024/02/03 08:19

虫時雨

目を閉ぢて脈をとりをる虫時雨 指先に神経を集中する。母の手首の親指側を押さえて脈をとる。母の脈の

2024/01/31 08:24

胡瓜

臍曲げて厨に寝たるきうりかな もちろん臍を曲げているのはきゅうりではない。だが、母の機嫌を損ねて

2024/01/29 07:49

胡瓜

臍曲げて厨に寝たるきうりかな もちろん臍を曲げているのはきゅうりではない。だが、母の機嫌を損ねて

2024/01/29 07:49

人の密度

わが母は朧なれどもぎゆつと人詰まりて人の密度は高し ああ、これが母なのだ。認知症が進むにつれて、

2024/01/25 09:40

亀鳴く

亀鳴けど聞こえぬ母の耳掃除 子どもの頃よく母が耳掃除をしてくれた。大きな耳垢が取れると嬉しそうに

2024/01/22 08:36

冷たし

こは左そは右と着す手が冷た 袖の中でつかまえた母の手は冷たかった。朝、体温と血圧・脈を測り、おむ

2024/01/19 08:20

冷たし

こは左そは右と着す手が冷た 袖の中でつかまえた母の手は冷たかった。朝、体温と血圧・脈を測り、おむ

2024/01/19 08:20

冷たし

こは左そは右と着す手が冷た 袖の中でつかまえた母の手は冷たかった。朝、体温と血圧・脈を測り、おむ

2024/01/19 08:20

桃

手にほのと桃の匂ひやおむつ替へ いま母は一人では用を足せない。｢おしっこ｣と言われると、目の前の

2024/01/16 07:07

桃

手にほのと桃の匂ひやおむつ替へ いま母は一人では用を足せない。｢おしっこ｣と言われると、目の前の

2024/01/16 07:07

汗

汗かかぬ老いを介護の玉の汗 母はほとんど汗をかかなくなった。狭心症や不整脈といった心臓病を抱えて

2024/01/13 06:08

汗

汗かかぬ老いを介護の玉の汗 母はほとんど汗をかかなくなった。狭心症や不整脈といった心臓病を抱えて

2024/01/13 06:08

春風

春風に母を洗ひて日に干せり リアルにいのちの洗濯だ。九十歳を過ぎた母と共に暮らしていると、｢いの

2024/01/10 08:09

春風

春風に母を洗ひて日に干せり リアルにいのちの洗濯だ。九十歳を過ぎた母と共に暮らしていると、｢いの

2024/01/10 08:09

元旦

元旦も老母の背中掻いてをり 季節も月日も時間も母には関係ない。ただ、内なる要求のままに、食べて寝

2024/01/07 08:09

元旦

元旦も老母の背中掻いてをり 季節も月日も時間も母には関係ない。ただ、内なる要求のままに、食べて寝

2024/01/07 08:09

初秋

初秋や母のいのちの坂いくつ 九月を過ぎるとほっとする。五年前の九月、母が徐脈で入院した。そのまま

2024/01/04 09:12

初秋

初秋や母のいのちの坂いくつ 九月を過ぎるとほっとする。五年前の九月、母が徐脈で入院した。そのまま

2024/01/04 09:12

どうぞご無事で

地震・津波の被害に遭われた方々、どうぞご無事で・・・。

2024/01/01 21:05

どうぞご無事で

地震・津波の被害に遭われた方々、どうぞご無事で・・・。

2024/01/01 21:05

明易

明易の母のお襁褓に夜の重み 二回分・四回分・六回分。何かの回数券ではない。紙おむつの種類である。

2024/01/01 07:24

明易

明易の母のお襁褓に夜の重み 二回分・四回分・六回分。何かの回数券ではない。紙おむつの種類である。

2024/01/01 07:24

一万回

一万回母を傷つけしその口で吐いてしまへり一万一回目のことば 本当は一万回どころではない。これまで

2023/12/29 07:44

一万回

一万回母を傷つけしその口で吐いてしまへり一万一回目のことば 本当は一万回どころではない。これまで

2023/12/29 07:44

石鹸玉

石鹸玉透けて記憶を病める母 『認知症』という病名に抵抗がある。では、どんな病名がよいか。一時期『

2023/12/26 08:47

冬の雷

冬の雷母の陰より響くごと はじめて老母の陰部を拭いた。私にとって、それは衝撃だった。その時の感覚

2023/12/23 08:03

小鳥来る

パンを手に眠れる老母小鳥来る 一年の四分の三は母と家にいる。父が死んでから、常に母の傍にいられる

2023/12/20 07:53

夕焼

夕焼けて母はわが家に迷子なり 夕暮症候群というらしい。認知症の人が、夕方になると不穏になったり、

2023/12/17 07:52

春の蚊

手もことば伝へたれどもわれの手のことば足らずを春の蚊が刺す 介護は、手がいのちだと思う。介護の大

2023/12/13 07:07

草餅

草餅やいまは老母の頬を拭く 食べ物を口に運ぶ。当たり前だと思うこんなことが出来ない時がある。それ

2023/12/10 08:47

水洟

吾の手で水洟拭ふ老母、こら！ 鼻水が拭ければ何でもいい。母が自分の考えをことばに出来たら、そうと

2023/12/07 08:06

いわし雲

いわし雲いつ止む母の一人言 幻と喋っているのだろうか。そんな日もあるが、これは会話というより、声

2023/12/04 08:21

炎昼

炎昼の床を濡らして母がゐた なにが起きた？ 廊下に立つ母の足元が濡れている。失禁したのかと思って

2023/11/30 08:12

着替え

母に脱げと言へば着せたる父が脱ぐ朝の着替への遅々と進まず 介護の家はときに喜劇だ。父母ともに介護

2023/11/26 16:30

朧

母朧介護の父も朧めく 迂闊だったのは私だ。｢そうか、幸彦は息子やったんか。これは迂闊やったなあ…

2023/11/26 16:28

風花

風花や母の下着を干す父に 母が病んだからというわけではない。共働きのわが家では、若い頃から父は炊

2023/11/26 16:26

秋灯

秋ともし母の徘徊数十歩 心臓が止まるかと思った。まだ父が生きていた頃のことだ。秋の夜、車で家から

2023/11/26 16:20

バナナ

母病みてある日抽斗よりバナナ いま思えば、あれが前触れだった。ある日、食器棚の引出しから食べかけ

2023/11/26 16:19