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オリジナル恋愛小説。O&O。H。となりに住んでるセンセイ。ワレワレはケッコンしません。など。

コツコツと執筆中。 北海道を舞台にしたものが多めです。

小田桐 直
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2021/02/12

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  • 13・分かってほしかった5

    ・ 垂れ落ちそうな鼻水をすする。 テレビ塔の方角に向かって歩いていた。うつむきながら。 風が強く曇り空であっても、この公園には常に人がいる。髪が長くてよかった。うつむいていると、うまい具合に表情を隠してくれる。 かかとの高い靴で踏み行く自分の足音が、うるさい。歩くたび、こめかみがズキズキと痛む。泣きすぎてしまった。 言ったとおり、そのとおり、奥村は追いかけてこない。 心臓がうるさい。動悸が激しい...

  • 13・分かってほしかった4

    (もう、こういうのが嫌になった) そう告げても奥村は動じていない。こちらを真っすぐに見つめてくる。 どうしても直視できず、その人から顔をそむけてしまった。 この人の前から、いなくなってしまいたいと思った。「だから、別れるのか?」 奥村の声は落ちついていた。 諭すように、ゆっくりとした話し方。「……ウン」 小さくうなずく。自分でもびっくりするくらい子供みたいな声で、うなずく。「もう、嫌になっちゃったか...

  • 13・分かってほしかった3

    「――あたし。そんなこと、言った?」 ぼろぼろとこぼれる涙を拭うこともせず、奥村の横顔を見つめていた。 土埃の匂い。風は、休みなく吹きつけてくる。自分の髪に触れるとごわごわした。「うん。言ったね」 言いながら、奥村がこちらをのぞき込んでくる。困ったような、呆れたような、笑っているような、そんな顔で。「なんて言ったらいいんだろう。あの時は。まあ情けないんだけど母親がね、そういう事になったって聞いて、グ...

  • 12・五階から4

    「でも、あいつがさ。俺にそういう事頼んでくるくらいだから、よっぽど切羽つまってたんだろうなって思ったんだ? 見たとおりだけど、あいつ気ぃ強いでしょ? めったに弱いところなんて見せない奴だったから」 情はあるよ。 と、奥村。「もうとっくに別れたって言ってもさ。一時は好きだな、いいな、って思ってた女だから。やっぱり情はあるよ。少しは残ってるよ。かわいそうだから俺が助けてやりたいって気持ちは、やっぱり、あ...

  • 12・五階から3

    ケージの中に二人きり。今度は本当に。 灰色の絨毯で囲まれた狭い箱の中に、二人きり。「なに、するの?」 やっと抗議が出来た。奥村に、手を握られたままであっても。「なにするの? あたし、これから外回り行かなきゃいけないんだけど」「あそう。だから何」 一回ぐらいサボれば? と、しれっと吐かれる。「なに、言ってるの? そんなこと、出来るわけないでしょう」「いいから」 言いながらまた、奥村が手を握り締めてく...

  • 12・五階から2

    まわりから注目を浴びていたことを今になって知る。事務所に人間が少ないぶん目立っていたのだ。 そそくさとホワイトボードへ移る。自分の名字の横に赤いマグネットを貼り付ける。資料の入った茶封筒を抱えて事務所から出れば、来訪者は黙って後をついてきた。 昼休みにはまだ少し早い。ほかに誰も出てきていない廊下の壁には、社で大々的に宣伝している総合保険のポスター。社がマスコットにしてある有名なキャラクターのポス...

  • 11・着信拒否3

    「陽子?」 母の呼ぶ声に動揺する。「誰だったの?」 水の流れる音がしていた。 母は台所でまだ食事の仕度を続けているのだろうか。そう思っても、振り返って確認することが出来ない。涙はこぼれていなくても、絶対に普通の顔をしていないから。「や、ただの間違い電話」 つとめて、明るく答えていた。「ふーん? まあいいや、陽子あんたお茶碗にご飯よそって? もうおかずも出来たから」「いやごめん。あたし髪、乾かさなきゃ...

  • 11・着信拒否2

    「あ」 たった一音だけ。 あ。 電話の向こうから聞こえてきた声に、心臓がやかましくなった。ほんとうに一音だけ。それだけで、相手が誰なのかが分かってしまう。 不意打ちだった。 携帯ではなく、自宅にかけてくるなんて。 ここにかけてくるなんて、初めてではないだろうか。奴が家の電話番号を知っていたことが意外だった。ずっと携帯だけでやりとりをしていたから。 虚をつかれたあとにやってきたのは、何とも言えない気...

  • 11・着信拒否1

    「ねえ。すごい匂いなんだけど。今日、魚?」 濡れた髪をバスタオルで拭きながら、台所に立つ母へ声をかける。換気扇が回っているのに居間は、焼き魚の匂いでいっぱいだった。台所と繋がっている居間は。 ソファに座って新聞を読んでいる父の髪は、すでに乾いていた。入浴を済ましていないのは、夜食の仕度をしている母だけだ。「今日ね、スーパーで特別、サンマ安かったんだわ。一匹五十円」「あー安いね」「もうサンマ安い時期...

  • 10・雨は変わらず振り続ける9

    バーバリーチェックの傘を、ぱんと広げる。 雨足は衰えていない。それどころか、前よりひどくなったかも知れない。 ひんやりした空気が頬にふれたとたん、鼻がつんとしてきた。涙がぶわりと溢れてきた。 ここは人も車も滅多に通らない、狭い脇道だ。それでも、傘で顔を隠して歩き出す。次々とこぼれていく涙を、鼻をすすりながら拭う。 ボトムパンツの裾がすでに冷たくて不愉快だ。雨水でびしゃびしゃに濡れた路面は容赦ない...

  • 10・雨は変わらず振り続ける8

    「でも。相手とは別れろって。そうしなきゃサインしないって高志には、言われたけど」 小野真知子の何度目かの「ごめん」を聞きながら、おしぼりをテーブルに落としていた。 ばさりと、わざと乱暴に。 拭ったはずの手は全然すっきりしていなかった。それどころかまた冷たく湿っていくから不快。 温かなおしぼりに触れていたはずなのに。「――よかったんじゃないですか? まあ、奥村は? 誰にでも優しいから? 頼まれると嫌と言...

  • 10・雨は変わらず振り続ける7

    自分のことではない。奥村とのことでもない。 けれど衝撃的だった。 視線が落ち着きなくさまよってしまう。向かいの唇を見たり。その下の手を見たり。テーブルに広げていた総合保険のパンフレットを見たり。隅に置かれた灰皿を見たり。「あたし。考えなし、だったからさ。妊娠したって分かった時はすぐ、いいや、だったら堕ろしてしまおうって、簡単に。そう、簡単に思ってたのね」 病院行って手術して。それで済むんだったら...

  • 10・雨は変わらず降り続ける5

    滴したたった傘が、陶器のレインラックへおさめられていった。二本続けざまに。 木製ドアを開ければ、コーヒーの香りが強く主張してくる。雨で少し濡れた肩先が、じわり温かくなっていく。 店に入るなり小野真知子が囁いてきた。「お客さん、誰もいないね」 ドアを閉めても聞こえてくる雨音。ここではバックミュージックなんてものを流していない。静かな店にいたのは彼女の言う通り、たった一人だけ。マスターだけだった。 ...

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