第37話 後ろがついてきてないみたいだ
山はいつも雲が近い。僕らは森の中で馬の背中にしがみついた。 その一方で、ゆっくり歩いているときには、油断していると突然立ち止まった馬は地面の草をぶちぶちとむしって食べ始める。馬たちにとっては牧場の敷地内が、サラリーマンでいうところの「職場」や「事務所」みたいなもので、森の中は窮屈な空間から解き放たれ、温泉にでも旅行で来ている感覚に近いのかもしれない。 一度草を食べ始めると、結構力を込めて手綱を引っ張り上げ、「ウォーク」と大声で合図しないといつまでたっても草を食べている。人間だったら全身を使って両手で引っこ抜くのにも一苦労しそうな、地面に固くはりついた草を、彼らは草食動物特有の平たい歯で簡単にむ…
2020/06/27 00:00