千日詩集

第639日 傲慢

傲慢私の魂はどうやら傲岸不遜であるらしいそんなつもりはないのだが服従することは嫌いのようだ傲慢な輩を見ると腹が立つそれは自身の戯画を見るせいか自分が必死で抑えているから人の放埒が許せないのかいやいやそうではない不服従と威張り散らすことは違う私は威張りたくなどないどこかの前世で王様だったのかその因果が祟って今は最底辺にいるのかでもなかなか服従心は生まれない第639日傲慢

2022/03/31 19:00

第638日 墜落

墜落二日酔いの朝の味噌汁は五臓六腑に沁みわたり焼け跡のごとき心をしとしとと宥めていく酒は神の水凡夫を引きずり上げ容赦なく叩き落とすそして肉の重さを思い知らせる踊り狂うつむじ風の向こう側に見えた光はもう跡形もなくだが後悔もすぐに忘れ夜にはまた酒を飲むあのかすかに見えた光を求めて第638日墜落

2022/03/30 19:00

第637日 リスク

リスクハイリスク・ハイリターンローリスク・ローリターンまあそういうものらしいうまくできている濡れ手で粟というのはまずないけれどたまにあるから困るそれを夢見て怠けるリターンなぞどうでもいいとリスクに挑み続けられればいいそれが偉大な人なのだろうそういう度胸に憧れつつ今日も言い訳してリスクを避けるリターンが少なくても文句は言えない第637日リスク

2022/03/29 19:00

第636日 狂花

狂花ソメイヨシノのあの一斉の開花と落花を古代の人は知らなかったもし昔にソメイヨシノがあったら人々は発狂していただろう和歌集の春の巻はとんでもなく厚くなっただろう近世人の尻軽な酔狂があの驚愕の奇跡を創り出し酔狂はさらに有頂天に達したもののあわれなんぞではない狂気の恍惚だ古代になかったのは幸いだった第636日狂花

2022/03/28 19:00

第635日 難民

難民日本はすでに難民で溢れている村からの難民で職がなく食べていけない村からの会社からの難民もいる家族からの難民もいる社会からの難民すらいるこの世は難民だらけだ生まれた場所で着実に生きるなんてこの文明では稀なことになった職と寝床を求めて右往左往運良く見つけられても安泰ではない文明の本体が難民でできているのだしょうがない誰もが難民なのだ第635日難民

2022/03/27 19:00

第634日 慈悲

慈悲仏教徒は慈悲慈悲と言うけれど仏教の根本命題群に慈悲の論理的根拠はない空と慈悲は折り合わない仏の慈悲や神の愛は論難する者がいないせいか無検証の前提になっているなぜ慈悲や愛があるのか難癖をつけているのではないそれを考究しない限り存在の謎は解けない神仏のではなく人間の慈悲や愛に人間の謎は隠されているそれを解かなければならない第634日慈悲

2022/03/26 19:00

第633日 時を止める

時を止める時を止めることができたら何をしたいかどうもけしからん考えばかり浮かんでくる透明人間になれたらどいうのも同じことなぜけしからん考えばかり考えるのか単に私がゲスなだけかズルな設定だからズルな考えが拡がるのか時を止められたら、そうだねえ満開の桜をずっと眺め続けるかほどなく飽きでしまうだろうか第633日時を止める

2022/03/25 19:00

第632日 天の幻

天の幻巨大な瀑布から光が落ちてくる光は滔々とあたりに満ち渡り朝露のように万象を輝かせるそれは大宇宙の創造の慈愛輝く万象の光に人は読むあまたの文明と霊族の歴史を苦悩と栄光の織りなす絵画に人は讃仰の歌を捧げるそこは天の入口形象と歴史の神秘が明かされるが創造への参与は遠いその幻は甘美だったがまた悲しくもあった天の幻は少しばかり毒を含んでいる第632日天の幻

2022/03/24 19:00

第631日 不求

不求人に求められ人に何も求めずそれが聖人かはてさて昔よくいた奥ゆかしい女性たちはそんな風に生きていなかったか女性が軽んじられていた世の中で彼女たちこそが聖人だったのか受け身の人生ではないかと批判することもできるだが本当にそうか知恵を求めて大愚へと行き着くように彼女たちは幾度も波乱の生を過ごしこの世から上がろうとしていたのか第631日不求

2022/03/23 19:00

第630日 無題

無題はゆみせしあやのたたらのいすおきてみゆにかれしをやまきかるとほゆへにみれさわやねのいつしおりてむみえなみにそよもあらふりゆるめせのけしそしらつむうちぬめくかろしむつへになこひよみゆらにさきなん言葉は意味なしでも美しい第630日無題

2022/03/22 19:00

第629日 目の前にある死

目の前にある死死と隣り合わせで生きることはよいことだ死を忘れて生きることは悲しいことだ死をただの消滅だと思うことはそれは自由だそれでいいならいいけれどそれは創造への反逆だ今死は目の前にぶらさげられているけれども人はそれから顔をそむけるせっかくの幸運なのに死は永遠への扉死と永遠を削除してしまうのなら人間はただケダモノに過ぎない第629日目の前にある死

2022/03/21 19:00

第628日 魂の種族

魂の種族魂にも種族はある血の種族とはまったく別に親と子だって魂の種族は違うかもしれない同じ種族が愛し合うわけではない憎み合うこともある違う種族が愛し合うそれがこの世の醍醐味種族は群をなして生まれ変わり世と歴史のあちこちで活動するしばしば互いを知ることなく自分の種族ははっきりわからないだが相手が違う種族だと思えば世の諍いは多少少なくなるだろう第628日魂の種族

2022/03/20 19:00

第627日 可視不可視

可視不可視見えないものを信じるなんて病気だと君は言う君の恋情が見えるのか君の怒りが見えるのか君自身が見えるのか宗教の大半は病気かもしれないけれど見えないものを一切否定したらそれもまた病気だ見えるものと見えないものとその交錯を人は生きる第627日可視不可視

2022/03/19 19:00

第626日 泣き虫

泣き虫ふっと小さな私が見えたひ弱で泣き虫でけれどいたく可愛い神様に愛された子供が一瞬の幻で姿は消えたひねくれ汚れた私の中にその子は今も生きているのかけれどどう探っても見つけられないひ弱なくせに憎たらしいガキしか私は座り込んで涙を流す泣き虫と同じ涙をけれど神様は愛してくれないだろう第626日泣き虫

2022/03/18 19:00

第625日 きれいな魂

きれいな魂きれいな魂の人はいい少し変わり者だったり仕事ができなかったりしてもその奥にきれいな魂があるのがちらりと見える有能な人や優しい人でも魂のきれいさを感じられない人もいるなぜだろうと思うがわからないきれいな魂の人は慎ましい場所に慎ましくいる自分の弱さも人の弱さも知っているけれどその奥に真っ直ぐな強さがあるそういう人に出逢うとこちらの魂も少しだけきれいになる気がする彼らはそうやって一隅を照らしている第625日きれいな魂

2022/03/17 19:00

第624日 砂まみれ飴玉

砂まみれ飴玉地面に落とした飴玉はまわりに砂やゴミがびっしり元は何だったのかもわからないわれらもそんなものだ水で溶かしながらこびりついたものを落としていくと中からようやくやせ細った飴が出てくるこびりついたゴミの毒が中に廻っていたらもうどうにもならない私はどうだろうもうどうにもならないか神様はぽいと捨てるだろうか第624日砂まみれ飴玉

2022/03/16 19:00

第623日 料理の力

料理の力料理にも生命エネルギーというものがある活気溢れる料理人が作った料理はエネルギーに溢れていておいしいたとえ素材が上質でなくても善良な小市民が作った料理は見た目はきれいでも深みがない感情細やかでも陰気な人間が作った料理は深みがあっても活力がないパック素材を使ったチェーン店の料理は生命エネルギーとはほど遠い腹は膨れても元気にはならないだろう素材や調味料や技術だけじゃないんだな作ってやるぞ食わせてやるぞという力入れが料理には欠かせないんだろう第623日料理の力

2022/03/15 19:00

第622日 小さい

小さい砂の一粒のように私は小さい何を創り出すこともできず何を慈しみ育むこともできないメダカが水槽の藻をつつくように周囲のものをついばみ小さな糞をするただそれだけの存在どんなに宇宙の果てのことを考えようとどれだけ背伸びして創造の秘義を探ろうと私の砂粒のごとき小ささは変わらない大きくなりたいのではないなれるわけでもないただ淡々と小ささを噛み締めるだけだ第622日小さい

2022/03/14 19:00

第621日 ささやかな役立ち

ささやかな役立ちささやかな役立ちを糧にして人は世を生きるあげる方ももらう方もありがとうと言われずとも賞賛を得られなくともささやかに役に立っていることに喜びを見出して人は働く大きな役立ちをしたいと願ってもそんな運にはなかなか巡り逢わないささやかな役立ちを続けるのは苦労が要るけれどささやかな役立ちが人の暮らしを支えているわれらはそれなしで一日も生きられない第621日ささやかな役立ち

2022/03/13 19:00

第620日 私という獣

私という獣垢や脂ではない私の匂いそれは私を安らがせる私はそれにくるまって眠るそれは私という獣私という獣への私の愛厭ってはいけない私が選んだ道なのだから痛い目に遭いながら苦しい思いをしながらそれでも私は何かを学んだ私は私という獣に感謝しなければならぬそしてそれを慈しんで眠る第620日私という獣

2022/03/12 19:00

第619日 好き嫌い

好き嫌い好き嫌いを自分で決めるのは案外難しい受け売りばかりだったり好き嫌いなど大した問題ではないという人もいるけれど好き嫌いは魂の色合いの表われ子供は好き嫌いが激しい美は最も好き嫌いに左右されるどんな芸術を好むかは人生に大きな色づけを与える好き嫌いは自覚せねばならぬ好きなものをもっと好きになれば魂はもっと明るく輝く第619日好き嫌い

2022/03/11 19:00

第618日 不格好

不格好つらつら文を書いていると「なければならない」とか「かもしれない」というのは長すぎだろうと思う「なな」とか「かし」とかにならぬか「君は行かなな」とか「明日は雨かし」とか文科省がお触れを出して次の日からNHKが「政府はしなな」とか「株が上がるかしです」とか言い出したら国民はどう反応するやら言葉というものは変に繁茂していたりごっそりと抜けていたりはなはだ間抜けで思い通りにならないものだ第618日不格好

2022/03/10 19:00

第617日 度し難し

度し難し神様はたくさんのものをくれたのに私はそれを活かすことができなかった本当にすまないと思うただ深く頭を垂れるのみそのくせ時々は神様は肝心なものをくれなかったと駄々っ子のように恨んだりするどうしようもない人間だ私の神様はさぞや仏頂面をしているだろうまことに申し訳ない努力しなかったわけじゃないんだけどねえ何がいけなかったのかねえただ途方に暮れるだけだわ第617日度し難し

2022/03/09 19:00

第616日 死に方

死に方血圧はやがて私の脳を破裂させるのか心臓はやがてストライキを起こすのか癌はやがて私の内臓を食い尽くすのかさあてどれがいいのか何かの事故で死ぬのが一番あっさりとしていいだろうがいささか不都合なところもありそうだこの世的にもあの世的にも誰かを守って死ぬことができたら一番幸福なような気がするがそれはあまりに中二病的妄想かと言いつつずるずると生きるもう疲れた何でもいいやと諦めるまで第616日死に方

2022/03/08 19:00

第615日 芽吹き

芽吹き緩み始めた冬の中で私は怖じ気づくまた生命の季節が始まる忙しく苦しい動乱が枯れてしまったかと諦めていた木瓜の乾いた枝からごま粒より小さな薄緑の芽が顔を出すその余りに小さな微笑みが私の胸を深く抉る生きることから逃げるなと仕方がないかと私は苦笑するあがき続けるしかないそのうち立ち枯れするまで第615日芽吹き

2022/03/07 19:00

第614日 悪魔の勝利

悪魔の勝利悪魔は言う光を求めるお前らの苦しみなど俺はいらん快楽を求める苦しみが俺の楽しみ悪魔が支配するこの世には快楽を求める苦しみが満ちているそうだよ悪魔が勝ったのだわれらは皆悪魔の餌食なのだ悪魔の支配から脱するには光を求める苦しみに生きるしかないけれどもわれらは光が何かを知らぬ末世のわれらにできることは何も求めぬ静寂に生きることかいくらかの人はそれに気づいている第614日悪魔の勝利

2022/03/06 19:00

第613日 召命

召命ああこのことをやりに来たんだなと確かに思える魂がいる脚光を浴びる魂もあれば世の片隅で黙々と打ち込む魂もいる素直にうらやましいそして当惑する俺はいったい何をやりに来たのか失敗と愚行？彼らは絶望しないのだろうか飽きたりしないのだろうか私には無理な話だまあ人はどうでもいい私は胸を張って言おう失敗と愚行をやりに来たのだと第613日召命

2022/03/05 19:00

第612日 経済

経済自分は高く売り付けようとし人は安く買い叩こうとする誰もがやっていることごく当たり前のこと最小の出費と手間で最大のものを得たい誰もが考えることそれを実現した人が偉いとされる経済というのは人の嫌なさがを見せつけるためにあるのか儲からない商売損する商売たぶんそれが聖道なのだろう第612日経済

2022/03/04 19:00

第611日 体

体体はあなたではない体が苦しむときあなたは苦しみ体が喜ぶときあなたも喜ぶけれど体はあなたではない体はあなたに与えられたものいとおしみ大切にしなければならぬけれど体はあなたではない体の愛を否定する必要はない体の欲を滅し尽くす必要はない体の求めは尊重しなければならぬけれど体はあなたではない体はあなたではないこれは智慧の初めの一歩だ真理はこの先に拡がる第611日体

2022/03/03 19:00

第610日 挽歌

挽歌沈みゆく文明に哀歌を歌おう悲しみと感謝を籠めてそれは魅力的だった心を奮い立たせ生きる力を与えてくれたけれどそれはなぜか終わった人は別の輝きに熱狂している私には安っぽいものにしか見えないが私はその担い手にはなれなかった私はそれを悲しむそれでも私はその文明への追慕を歌う第610日挽歌

2022/03/02 19:00

第609日 雪国の春

雪国の春茅葺き屋根に積もった雪から透き通った玉が間遠に落ちるそんな雪国の春にじっとすわっていてみたい匂いのなかった空気に何かわからぬ香りがふと混じる芽吹きも花もまだなのに何かが息を立て始める長く苦しい冬ゆえの淡い歓喜の弾みにわが身を振るわせてみたい軟弱なわが身を奮い立たせて一年でも二年でもそんな春が来る雪国に暮らしてみたい第609日雪国の春

2022/03/01 19:00