第三十三話 おかしなボール
教習所へ通っていたころだから、二十歳くらいの話だ。教習所へ向かう途中に、バッティングセンターがあった。時間調整のためや、嫌な教官に当たってしまったときの憂さ晴らしに、私はときどき、ここに寄った。 ある日のこと、私はいつものように、一番左のボックスに入った。野球は遊びや体育の授業(あれはソフトボールか)でやっただけだが、剣道をやっていたこともあってか、打撃はまずまずである。毎回同じようなスピードで、まっすぐ投げられる球なら、だいたい打ち返すことはできた。バッティングセンターでは、他人のバッティングを後ろで見ている人がたまにいるが、この日もふたり、そうした人が私を見ていた。 何球目だったか。私の視…
2020/06/21 01:37