春を教えるのはたんぽぽではない
朝、誰もいない教室。 一番最初に入ったのは、3年間の中で初めてだ。 窓際の席に座り、窓の外を眺めて中学生活を振り返る。 授業をサボった回数は数え切れないし、先生と喧嘩した回数も数え切れない。 こんな俺でも心がざわついてしまう卒業という言葉が、誰もかれもが浮つく春の空気のように、苦手だった。 ちらほらとクラスメイトが教室に入ってきて、その中の一人が俺に向かって勢いよく飛び跳ねねてくる、隣の席の田中優吾だ。 「おい洋介〜、珍しいなこんな時間に。さっき途中で見たんだけどたんぽぽ。春だなー、こんな寒いのに」 「俺春嫌いだから」 朝の冷えた空気に反発するように大きい雄吾の声も、少し鬱陶しかった。 そんな…
2024/03/15 16:07