熱海の冬の物語
昭代さんは熱海駅ビル、「ラスカ熱海」の入り口近くに立っていた。彼女とは四年ぶりの再会であった。母の古い友人であるため私も幼少の時から交流がある。 このようなモダンな駅ビルは私の乏しい記憶の中に存在していなかった。熱海という町は、日本に数多く存在する温泉町の一つであるが、他の温泉町と比較して生き残れる条件が揃っている。JR東海道線の終着駅であることもその一因であろう。 昭代さんの服のセンスは相変わらず良い。 羽振りの良かった頃には、彼女は上から下まで全て上質のもので決めていた。 彼女は、温泉饅頭の湯気の漂う仲見世通りに一瞥をやると独りごちった。 「嫌だわ、温泉街の雰囲気
2023/01/14 07:49