葉桜
隅田川沿いの桜は、もう黄緑色の葉っぱが目立っていた。 「もう少し早かったら良かったのにな。」 残念そうに言うそのひとに、笑いながら私は言う。 「このくらいが丁度いいよ。」 「ん?もう散りそうなのがいいの?」 「うん。だって似合ってるじゃん、うちらに。葉桜。」 そのひとも声をたてて笑った。 「そっか。葉桜って感じね。」 延々降り続く花吹雪は、逆光で、嘘みたいに綺麗だった。 「ちょっと待って」 そのひとの声に立ち止まり振り返る。 黙って、私の髪に絡んだ花びらを指でつまんだ。 突然、全身を、羞恥と幸福が駆け巡る。 誰にも祝福されない、はじまりの日。
2019/04/20 11:00