ねじまき鳥クロニクル
栞 「ねえ、ねじまき鳥さん、あなたがあそこの井戸の底にいるあいだ、私はだいたいここに寝ころんで日光浴をしていたのよ。ここから空き家の庭を見ながら、体を焼いて、井戸の底にいるあなたのことを考えていたの。あそこにねじまき鳥さんがいるんだって。あの深い暗闇の中であなたがお腹をすかせて、ちょっとずつちょっとずつ死に向かって近づいているんだって。あなたはあそこから出られない、あなたがあそこにいることは私しか知らない。そう思うと、私はあなたの苦痛やら不安やら恐怖やらをものすごくありありと感じていることができたの。ねえ、わかるかな? そうすることによって、私はねじまき鳥さんという人間にものすごく近くまで近づ…
2020/01/02 00:09