「劇場」
一番好きな文学作品を聞く質問は、センスや教養を問われているようで、いつも答えに詰まる。自分をセンス良く見せるなら、この質問にベストセラーを答えるのは論外、芸能人が著した作品もすれすれ、文学への知識の浅さを露呈してしまうから避けるべきなのだが、どう考えても自分が一番好きな作品は、又吉直樹の『劇場』で揺るぎない。 何回読み返したかわからない。『劇場』の序盤にこんな一説がある。 「右のポケットが振動し、携帯をひらくと「ごめん!全然暇なんだけど!」という文面だった。それを目にした瞬間、頬肉が溶けてしまうあの感覚。ドブにあごまで浸かっているかのように身体が重たくなった。現実の痛みは常に予想を凌駕する」 …
2018/10/31 20:51