治療師師か詐欺師か(8)川田家の犬
庭の生垣に沿って金木犀が植えられていた。季節は秋で、裏口に進んで行くと甘い香りが押し寄せてきた。四方八方に伸びた剪定されていない金木犀の枝をかき分けながら進むと、白衣の肩にオレンジ色の小さな花がついた。裏口のすぐ横に犬小屋があった。塗装のしていない木製の犬小屋は湿気で木の一部が腐り、苔の生えた屋根は抜けていた。犬小屋の中にはバケツやホースなどが入れてあり、犬はいないようだった。「失礼いたします」といいながら裏口を開けたが、足の踏み場がないぐらい靴が散乱していた。靴の上に靴を乗せる訳にはいかないので、自分の靴は外に出すことにした。「お邪魔します」びっしりと敷き詰めた靴の山をまたいで薄暗い台所に入った。川田愛子さん(82歳)は専業主婦だった。夫亡き後は共働きの息子夫婦を支え、孫たち二人の世話もしてきた。二人の孫たち...治療師師か詐欺師か(8)川田家の犬
2019/09/26 03:37