謎のアマガエル
先日の記事(「蜘蛛の旅」)を書いていて思い出した事があったので、過去の記憶を辿りながらお話しします。 あれは確か、私がまだ鹿児島の実家に住んでいた中学生の頃の出来事でした。 夜、私は誰も居ないキッチンの方から蛙の鳴き声が聞こえているのに気が付きました。 「蛙!?家の中に居るのか?」 不思議に思って鳴き声の聞こえる方へ近づいてみると、流し台正面の窓ガラスの上に親指半分ほどの大きさの小さなアマガエルが貼り付いていたのです。 私は驚きました。「この蛙は一体どこから家の中へ入って来たんだ!?」 当時(実は今もそうなのですが)、私は蛇や蛙などの爬虫類や両生類が大の苦手で、手に触れる事はもちろん、近くに居られるだけで気持ち悪くなってしまうほど神経質でした。 とにかく家の中からだけは出て行ってもらわなければ困る! 「ごめんな。」 思い立った私はビニール袋を手袋代わりにした手でそのアマガエルをそっと掴むと、「お引取り願う」ために庭へ出ました。 「悪いな。お前がどこで何をしてようがお前の勝手だとは思うんだが、俺の家の中でだけはやめて欲しいんだ。」 私は蛙の目を見つめながら心の中でそう伝えると、庭の端の草むらに彼を放とうとしました。 しかし・・ 「近くに川や湿地も無いこんな所で放したりしたら、たぶん外敵に襲われるか、干からびて死んでしまうのが落ちだろうな・・」 「しょうがないな・・」 私はそう思いながらも、サンダル履きのまま、その蛙を家から1km近く離れた川や水田のある地域まで歩いて運ぶ事にしました。 「お前一体どうやって、どこからあんなとこまで来たんだ?」 サンダル履きの私は、ビニール越しの自分の掌の中で、暴れる事もなくじっとしているその蛙に、他愛のない話題も含む色々な事を話しかけながら川の方へ向かって歩きました。 「元気でな。」 水田地域に山からの水を供給している最も綺麗な水の通り道である洗い場へ着くと、私は小さな露天風呂大のダムの中へ蛙を放ちました。 気持ち良さそうに泳ぎ去って行く彼の後ろ姿を見た時、私はとても晴れ晴れしい気持ちになりました。 南国の初夏の蒸し暑さの中、汗ばみながらそこまで歩いてきた身体の不快感が、何か不思議な爽快感で癒されるような気持ちになったのでした。 それから半月ほど経った夜の事だったでしょうか。 少なくともあの年の夏のうちの出来事であった事だけは確かだったと思います。 明かりの消えた薄暗いキッチンの流し
2019/10/23 19:25