エッセイ「書く葛藤2 アポロンとディオニソス」

エッセイ「書く葛藤2 アポロンとディオニソス」

書けない。しかし、せめて、書けないことを、書いてみたい。 私には、自閉症の特性に由来する、特殊な感覚がある。これを書きたいと思いついたのは、25年前になる。 はじめに「書け」と言ったのは、哲学を好む、ある文学の先生だった。当時私は、キルケゴールの本を翻訳したものを読んでいた。だから私の言葉も、思想も、いわゆる翻訳調であった。カクカク、ゴテゴテとしていた。岩盤のように。「それだけ考えていることがあるなら、書くべきだね」と先生は言った。 それから20年、「書きたい」「でも書けない」と苦しい葛藤をした。葛藤しすぎて病気(身体表現性障害。心の葛藤が身体機能を損なわせる病気)にまでなった。 ある人は、自…