秋が揺れはじめて
高安ミツ子夏の終わりの夕顔は探す秋風に首をゆすってひたむきに咲きだしました宵闇に開花した純白の夕顔は天に昇っていくようにも見え天から降りてきたようにも思えますほのかな香りは二人で歩いた半世紀を絡め過ぎてきたいくつもの曲がり角やくぐりぬけた思い出を連れてきて二人に振りかけていくのです青葉のように若やいでいたあのころはたまた暗い道すがら二人で木漏れ日の向こうへとひたすら歩んだあの時間はこの美しさに出会うための歩みだったのだろうかゆらゆらと一夜で散ってしまう夕顔のようにいつかは消えていく命だけれど今宵の夕顔は生命の終わりをせき止めて私の心を酔わせています揺れ始めた秋の風は人生の道すがらを涼やかに示していますすだく虫の音にやがて来る二人の終わりを背後に感じながらも遠い一筋の道のりを互いに黙って飲み込んでゆきました...秋が揺れはじめて
2024/09/28 16:45