若松賤子とセドリックの怜朗*

若松賤子とセドリックの怜朗*

世界各国のさまざまな本を、私たちがいつでも自由に読むことが出来るのは、ひとえに多くの翻訳家のおかげであるといっていい。あらゆる分野で翻訳書が出版されている中で、女性翻訳家の占める割合は、近年確実に高くなっているように思われる。 若松賤子(しずこ)は、その女性翻訳家の草分けともいえるひとである。しかし、彼女の訳した代表作『小公子』や『小公女』、作者のバーネット夫人のことは知っていても、賤子の名をすぐに思い出す人は、もう今ではごく稀になってしまったのではないだろうか。賤子の果たした役割は、最初の本格的な女性翻訳家というばかりでなく、その直前まで読まれていた児童ものが『鶴千代』や『牛若丸』であったこ…