大岡昇平『武蔵野夫人』と内田吐夢『限りなき前進』
[ 学生時代、恋ケ窪、鷹の台、と国分寺からふたつめの駅で降り、玉川上水沿いの道を歩いて大学へ通った。大岡昇平の『武蔵野夫人』は、その恋ケ窪が舞台だが、かつて一度たりともそこで降りようとしたことはなかった。溝口健二監督の映画『武蔵野夫人』をあらためて観ると、戦後すぐの武蔵野の風景と野川の湧き水、その水源地である恋ケ窪が牧歌的に描かれている。この地には、遊女が池に身を投げたという伝説があった。主人公道子(田中絹代)の従弟で、ひそかに想いあっている、ビルマから復員したばかりの大学生勉役に片山明彦。この人は両親が俳優で、子役として『路傍の石』の愛川吾一などを演じている。『挽歌』では知的な建築技師だった…
2015/09/05 02:23