挿絵画家 松野一夫の多彩な世界

挿絵画家 松野一夫の多彩な世界

かつてあったのに今はなく、自分で作ってしまいたいと思う本のひとつに、少女雑誌がある。少女といっても子どもではなく、若い女性という方が近い。もっと広い意味では、”少女の感性”を持ち続けているひとのための雑誌である。 上質の教養と娯楽とロマンがあり、繊やかな情感に満ちている。初めて詩や名作に触れて、それを飾っていた挿絵を、いつまでも記憶に刻んでいる読者も多いことだろう。 実業之日本社の『新女苑』創刊の昭和十二年から十五年まで、巻頭カラー口絵の「名作絵物語」の挿絵を描いたのが、松野一夫である。 物語はジイドの『窄き門』、モームの『雨』、リラダンやヘンリー・ジェイムス、パール・バックなどの名作を阿倍知…