信濃追分と福永武彦夫妻のこと
紫のぼかしに短冊を散らし、物憂い横顔の婦人を配した七夕の絵葉書。裏をかえすと、旧字旧仮名の見馴れぬ文字が綴られている。差出人の名前を見て私は驚いた。それが福永武彦先生にはじめて戴いた夢二の絵葉書だった。そのとき、先生の余命があと四年などということを、誰が予測しえただろうか。 「この間はお手紙ありがたう 豆本二冊たのしく拝見しました(中略)今どき 本づくりの好きな人なんてのは珍しいから大いにおやりなさい(中略)これから追分の方に出かけますから 夏の間にこちらに来たらお寄りなさい 原則的には面会謝絶ですから 電話を先にかけるか ちゃんと自己紹介をして下さい」 そして末尾に追分の電話番号が書かれてあ…
2015/03/18 07:13